社会科学:ハイブリッドワークは従業員の定着率を高める
Nature
世界的な旅行代理店の中国オフィスで、フレキシブルな在宅勤務制度が仕事に対する満足度と従業員の定着率を高めることが明らかになったことを報告する論文が、Natureに掲載される。今回の研究では、ハイブリッドワークに関連して、社員のパフォーマンスに対する影響は見られなかった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)をきっかけに、在宅勤務が一般的になりつつある。その結果行われた在宅勤務に関する研究は、主に完全リモート勤務によって独立した職務を遂行する従業員に焦点を合わせており、生産性に悪影響が及んだという結果が得られた。しかし、このような研究は、ハイブリッドな勤務スケジュールで働いている全世界の従業員の70%に対応していない。こうした従業員は、創造的で協働的な役割を担う大卒者という傾向がある。
今回、Nicholas Bloomらは、在宅勤務が従業員のパフォーマンス、定着率、および仕事に対する満足度に及ぼす影響を調べるため、2021~2022年の6カ月間にわたって無作為化対照試験を実施した。中国のTrip.comでソフトウエアエンジニアリング、マーケティング、会計、財務の職務に従事する合計1612人の大卒従業員が今回の研究に参加した。参加者には、週3日あるいは週5日オフィスに出勤するという勤務スケジュールが無作為に割り当てられた。在宅勤務グループでは、離職率が3分の1低下し、仕事に対する満足度のスコアが上昇した。離職率の低下は、女性従業員、非管理職者、通勤時間の長い従業員で最も大きかった。また、この実験の前に生産性への影響を懸念していた管理職者も、実験後には在宅勤務に対する意見が肯定的になった。
次に、Bloomらは、ハイブリッドワークが従業員のパフォーマンスと昇進に与える影響を評価した。Bloomらは、実験開始から最長2年間にわたって従業員のパフォーマンスの指標(勤務評定、昇進の結果など)を調べたが、ハイブリッド型在宅勤務群と対照群の間に差は認められなかった。これらの結果を受けて、Trip.comではハイブリッドワークに関する方針を全従業員に拡大適用した。同社は、退職者が減る可能性があるため、採用と研修のコストを数百万ドル節約できる可能性があると試算した。
Bloomらは、Trip.comのように従業員が現代的なオフィス空間で1日8時間働くという職場環境に対して、今回の研究結果を適用できる可能性があるという見解を示している。
doi: 10.1038/s41586-024-07500-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。