2016年5月号Volume 13 Number 5
カンブリア爆発の火種
大型捕食者アノマロカリスをはじめ、脊椎動物へとつながるピカイアなど、複雑な形態の動物の祖先がほとんど出そろったといわれるカンブリア紀。動きの早い捕食者が突如出現したことで、ほとんど動けなかったエディアカラ紀の動物たちは食べ尽くされ絶滅したと考えられている。爆発的進化が起こったとされる両時代の境目で、一体何があったのだろう? 少数の生物から緩やかに多様な生物が生じたとする進化論では説明がつかず長年論争が続いていたが、当時の海洋の酸素濃度に関する新発見があり、大変化のきっかけがついに見えてきた。
Editorial
Research Highlights
珍渦虫類の位置付け
脳も肛門も生殖巣もなければ、排泄器官も腸管もない。分類不能だった謎の動物の正体が、遺伝学の手法でようやく明らかになった。
News
HDLコレステロールは本当に善玉か
「HDLコレステロール値を上昇させれば心疾患のリスクを低減できる」という考えに反する遺伝学的研究結果が報告された。
ティラノサウルス類進化の謎を解く新種か?
ウズベキスタンで、新種の小型ティラノサウルス類の化石が発見された。その年代と特徴は、ティラノサウルス類が複雑な感覚系を進化させてから急激に巨大化したことを示唆している。
米国立がん研究所がモデル細胞株を刷新
抗がん剤スクリーニングに長年広く用いられてきたモデルを、マウス体内で増殖させたヒト腫瘍細胞(PDX)に切り替える方針だ。
「3人の親」を持つ胚の作製を米国専門委員会が支持
ミトコンドリア置換の臨床試験を支持する報告書が提出された。ただし現状の連邦法の下では、関係当局がこの種の臨床試験を承認することはできない。
指示されると責任を感じない
権威に指示された人が抵抗なく他者に危害を加えることを示して物議を醸した「ミルグラム実験」の現代版でも、人が指示に従って行動するときには、自分の行為にあまり責任を感じないことが確認された。
半合成マラリア治療薬が市場で大苦戦
市場への影響がほとんどなかったのは、アルテミシニンの供給過剰が原因だ。だが、需要の急増はいつ起こるか分からず、マラリア治療薬の安定供給には半合成アルテミシニンが欠かせない。
論文の追試結果を発表する学術誌が始動
医学生物学分野の論文の再現性について報告するオンライン学術誌が創刊され、バイオテクノロジー企業が最初の論文を投稿した。
生物学研究者よ、プレプリントの投稿を
生物医学分野の研究論文原稿を、論文誌掲載前に研究者自身がオンライン公開することについて議論する会議が開かれた。
News Feature
カンブリア爆発の「火種」
5億4000万年前に起きた爆発的進化によって、カンブリア紀の海は驚くほど多様な動物でいっぱいになった。この大変化のきっかけが、ついに見えてきたようだ。
Japanese Author
Free access
カメムシの腸内共生細菌は進化の途上
昆虫の体内に棲みつき、昆虫にとって欠くことのできない役割を果たしている共生細菌。自然界で別々に暮らしていた昆虫と細菌が、長い進化の過程を経て、互いに不可欠な存在になったのだ。しかし、そのような関係に至った仕組みはまだ分かっていない。この謎に迫る重要な発見がNature Microbiology の創刊号で報告された。自然界で現在進行中の共生進化の過程を捉えることに、日本の研究チームが成功したのだ。
News & Views
遺伝学と生理学がついに結び付いた
統合失調症発症のリスクと強い関連性がある遺伝的変異の1つが特定された。シナプスの刈り込みに関与すると考えられている補体因子C4遺伝子だ。神経生物学とを結ぶ手掛かりがようやく得られ、創薬につながることが期待される。
自己免疫疾患のための免疫療法
MHCクラスII分子と自己免疫疾患に関連する任意のタンパク質断片の複合体で覆ったナノ粒子の投与により、免疫調節機構を患部器官の自己免疫応答を抑制する方向に転換できることが分かった。
News Scan
山越えシルクロード
チベットを行く交易路が浮上。
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