2017年10月号Volume 14 Number 10
単一細胞(シングルセル)解析
塩基配列解読技術の進歩によって微量なRNAも解析できるようになり、細胞集団を単一細胞レベルで調べることが可能になった。この進歩により、これまで困難だと思われていたさまざまなアイデアが実現している。今号では、この分野を切り開き、現在ヒト細胞アトラスを主導するAviv Regev氏の素顔に迫った「細胞に魅せられた科学者」の他、この手法なしには達成できなかった「T細胞の標的認識パターンを予測」も掲載。
Editorial
News
ウミヘビが縞模様を捨てた理由
都市の近海に生息するカメガシラウミヘビには、全身が黒い個体が多い。これは、体内から有害な汚染物質を除去する手段であることが示唆された。亜鉛などの金属と結合しやすいメラニン色素を外皮に増やすことで、そうした金属を脱皮により排除しているのだという。
CRISPRでヒト胚の遺伝子変異を修復
CRISPR–Cas9系によるヒト胚の遺伝子編集実験において、望ましくない遺伝的変化やモザイク胚が生じない手法の開発に成功したという論文が発表された。
カタールの経済封鎖でヘリウム供給に暗雲
中東諸国による経済封鎖が続くカタールでヘリウム製造プラントが操業停止に追い込まれ、ヘリウムの供給不足が懸念されている。
不適切な較正が覆い隠した海面上昇
人工衛星による海面高度データを複数研究者が再計算した結果、海面上昇のペースが加速していることが裏付けられた。
「葉の形」の巨大データベースが完成
世界各地の141科の葉18万2000枚の形状が、トポロジーを用いて解析された。このデータは、植物の地理的・分類学的な種間関係の研究に有効なことも実証された。
英国で影響力増す「イノベートUK」
企業への助成に重点を置く、英国政府の研究資金助成機関「イノベートUK」が、その影響力を急速に増している。
脳の幹細胞がマウスを若返らせる
幹細胞移植により老化が遅くなり、寿命が延びることが報告された。
News Features
トポロジカル物質の未来
ごくありふれた物質の中に、奇妙なトポロジー効果が隠れているかもしれない。こうした効果を見つけることで、新粒子の発見や超高速トランジスターの実現、ひいては量子コンピューティングの開発に弾みをつける可能性がある。
細胞に魅せられた科学者
Aviv Regevはゲノム解析の手法を用いて単一細胞を調べている。現在、人体の全ての細胞をマッピングするという壮大な計画を牽引する。
Japanese Author
制御性T細胞研究とともに歩む
異物を攻撃して体を守る働きをする免疫反応には、それを促進する役割と抑制する役割を果たす仕組みが備わっている。抑制する働きの1つを担う制御性T細胞の存在を提唱し、それを証明した坂口志文・大阪大学特任教授には、ガードナー国際賞をはじめとするたくさんの賞が与えられた。現在、制御性T細胞のコントロールを目指して、ゲノムやエピゲノムレベルでの研究を進めている。
News & Views
魚が流れを感じて危害を避ける仕組み
魚は、体の側面にある毛状のセンサーで水の運動を感知していると考えられている。魚がセンサーの情報からどのようにして水の流れの状況を把握し、流れに対する応答を決めているのかが、実験と計算機シミュレーションで明らかになった。
抗体はドーパミンを介して作られる
T細胞は、B細胞が抗体産生細胞へと分化するのを助ける。これにはドーパミンを使った細胞間のシグナル伝達が必要とされることが報告された。神経伝達物質であるドーパミンは、意外なことに免疫でも役割を持つことが分かった。
T細胞の標的認識パターンを予測
T細胞受容体(TCR)は、通常は体内に存在しないペプチド分子に結合して免疫応答を開始できる。TCRが結合するペプチドを予測することは難しいとされてきたが、今回、TCRの標的抗原の予測に向けた筋道が見えてきた。
News Scan
ガの眼に学んだ表示画面
携帯電話の画面を見やすくするコーティング
皮膚をまねた日焼け止め
合成メラニンの微粒子が皮膚細胞を内側からガード