2017年3月号Volume 14 Number 3
CRISPRの謎
ゲノム編集ツールとして注目を集めるCRISPR系。この機構の特徴的な繰り返し配列を最初に報告したのは、大腸菌ゲノムを調べていた大阪大学の研究者で、1987年のことだった。その後、この領域にはウイルスの塩基配列が記憶されていることが分かり、現在は、原核生物がウイルス感染に対抗するために進化させた「適応免疫」と考えられている。だが、それ以外の機能が存在することや、利用しているのは一部の原核生物に過ぎないことが明らかになり、生物学的な謎はますます深まっている。
Editorial
Research Highlights
News
ウイルスも会話する
細菌に感染するウイルスの一種は、祖先ウイルスからメッセージを受信し、それに従って宿主に対する攻撃法を決めていることが明らかになった。
Free access
「ぶんぶんゴマ」が遠心分離機に
昔ながらの玩具「ぶんぶんゴマ」をヒントにした手動遠心分離機が開発された。血液サンプルの処理やマラリア原虫の分離を、電気なしで安価に行うことが可能だ。
簡便で正確な脳震盪診断法
小規模な研究から、音声合成装置で生成された「ダ」の音声を聞かせるだけで脳震盪(軽度の脳損傷)を判別できる可能性が示された。長期的な影響を評価する生物学的マーカーとしても利用できるかもしれない。
細菌でプリオン様タンパク質を発見
これまで植物や動物などの真核生物の細胞でしか見つかっていなかった「プリオン」が、細菌でも見つかった。
EUが軍事研究に研究費助成
EUが軍事技術研究に研究費を助成し始めた。国際情勢の変化とテロの脅威に対応するためだ。
赤ちゃんの脳損傷を防ぐ新治療法に高まる期待
低酸素性虚血性脳症(HIE)の新生児の命を救うと期待される実験的治療法が、臨床試験の段階に入った。
がんワクチン予測を競うアルゴリズムコンテスト
個別化がんワクチンとして有望な候補を絞り込むのに、予測アルゴリズムが役立つかもしれない。
EUの衛星航法システム「ガリレオ」が始動
欧州やアジア諸国はこれまで米国やロシアの衛星航法(測位)システムに依存していたが、今後数年で独自のシステムを完成させると見られる。
News Feature
CRISPRの謎
世界はバイオテクノロジーに革命をもたらす遺伝子編集ツール「CRISPR」に群がっているが、それがどのように働き、何に由来するのかという基礎的な問題は、今なお大きな謎となっている。
Japanese Author
360度曲がる携帯型テラヘルツ波スキャナー
雲の分布や海水温のモニタリング、セキュリティー検査、がんの画像診断などのさまざまな用途で、「見えないものを見る」非接触・非破壊のイメージング技術が使われている。その際に使われる電磁波の波長はさまざまだが、30〜3000µmのテラヘルツ波は、得られる画像の解像度が低い、装置が大がかり、といった理由で実用化が遅れていた。今回、河野行雄・東京工業大学科学技術創成研究院准教授らは、カーボンナノチューブでできたフィルムを利用することで、360度曲げることができ、携帯も可能な小型のテラヘルツスキャナーの開発に成功した。
News & Views
神経の同調を回復させてアルツハイマー病を治療
アルツハイマー病では、神経回路の活動で生じる電気的振動に障害が現れる。マウスモデル でこれらの振動を回復させると、免疫細胞が活性化して、アルツハイマー病に関連するアミロイドβタンパク質が脳から除去されることが示された。
ハート模様に秘められた冥王星の物語
冥王星のひときわ目立つハート形をした明るい領域の左半分は、「スプートニク平原」と呼ばれる霜が堆積した広大な盆地だ。この盆地は、冥王星の自転軸を変化させ、表面のテクトニクス活動を促してきただけでなく、その表面下に海をたたえている可能性もあることが、4編の論文で明らかになった。
未踏の領域に踏み出した自己集合体
適切な金属イオンと有機リンカーの自己集合によりケージ状の構造体を形成する場合、構造体の大きさには限界があった。今回、新しいケージ群の存在が発見され、かつてない大きさの構造体をこの手法で形成できることが明らかになった。自己集合研究の新たな領域が開かれそうだ。
News Scan
血流移動ロボットに一歩
光で操作する微小装置ができた