2024年3月号Volume 21 Number 3
科学研究へのAIの利用は再現性の危機を引き起こす?
機械学習などのAIは強力な統計ツールであり、データの中に、人間の研究者には見えないことの多いパターンを見つけ出すことで、ほとんど全ての科学分野を発展させている。一方で、十分な知識のない研究者がAIソフトウエアを利用するようになった結果、再現性のない主張、実際には間違っている主張、実用性のない主張をする論文が大量に生み出されている現状を懸念する声が上がっている。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「地球は温暖化しているがエベレストは寒冷化している」「絶滅を免れた鳥の多様性」「絶滅を免れた鳥の多様性」「イルカは電気感覚でディナーを感知」、他。
News in Focus
宇宙背景放射観測施設が米国の推薦計画リストのトップに
宇宙マイクロ波背景放射、ニュートリノ、ヒッグス粒子、暗黒物質の各研究計画への資金提供を米国の素粒子物理学者らの委員会が勧告した。
世界最大のヒトゲノムセットが科学者に公開される
英国バイオバンクの50万の全ゲノムセットは、ヒトDNA研究に役立つだろう。
データベースから新たなCRISPR系を見いだす
新たに開発されたアルゴリズムを用いることで、自然界では極めてまれにしか存在しない、DNAを切断する遺伝子や酵素が特定されている。
あなたの器官はまだ元気? その手掛かりは血液に
ヒトの体内の器官は、器官によって加齢の程度が異なる場合があり、健康や死亡率と関係している。
次世代CRISPR:新しい遺伝子編集技術が臨床試験へ
CRISPR治療の初承認が、より精密なゲノム編集治療への道を開く。
近距離の共同研究は破壊的な成果を生みやすい
膨大な数の研究論文と特許出願の分析によって、共同研究における物理的な距離と研究の影響力との関係性が示された。
2023年の撤回論文数が1万本突破で新記録
2023年には撤回論文数が急増したが、研究公正の専門家は、これは氷山の一角にすぎないと言う。
Features
科学研究へのAIの利用は再現性の危機を引き起こす?
十分な知識なしに、研究に人工知能(AI)を使うことで、信頼性に欠ける論文や役に立たない論文が大量に生み出されてしまうことが懸念されている。
青少年に大麻のリスクをどう伝えるか
成人の嗜好用大麻の使用が世界で初めて合法化されてから約10年になる今、若者が大麻に接する機会は増えつつある。科学者たちは、大麻のリスクについてエビデンスに基づく勧告をしようと努力している。
ペロブスカイトは太陽光発電の未来を担えるか
ペロブスカイト/シリコンタンデム太陽電池の性能が大きく向上し、これらを使ったソーラーパネルの本格的な市場投入が間近に迫っているが、その未来は期待通り明るいものになるだろうか。
News & Views
糖尿病予防プログラムの検証
糖尿病リスクのある人を生活習慣改善プログラムに紹介して、カウンセリングや生活習慣介入を行うと健康状態が改善されることが、英国でのプログラム検証研究によって証明された。ただし、プログラムへの参加を続ければ、の話である。
MYCタンパク質はがんのビタミン取り込みを助ける
がん細胞の栄養素依存性を特定することは、新しい治療法の開発に非常に重要である。今回、アグレッシブなタイプのがん細胞がビタミンB5を大量に取り込むことが見いだされ、ビタミンの利用可能性と腫瘍増殖の間の結び付きが浮き彫りになった。
次世代の吸入用ドライパウダーCOVIDワクチン
現在使われている注射用COVID-19ワクチンは、気道の粘膜組織には強力な免疫を誘導することができない。今回、吸入用ドライパウダー製剤として気道に送達されるタンパク質由来ワクチンが、ワクチン開発を前進させる上で有望なことが示された。
Advances
深海への進出
魚が深海にすむようになったのはいつ?
Where I Work
Sthabile Kolwa
Sthabile Kolwaは、ヨハネスブルク大学(南アフリカ共和国)の天文学者。