2012年5月号Volume 9 Number 5
放射性炭素14の超高感度測定法
放射性炭素14による年代測定は、考古学では不可欠の技術だ。約5万年前までであれば、土器や骨がいつ遺されたのか、正確に推定することができる。ただ、これには高エネルギー加速器を用いた高価な質量分析が必要だった。しかし今回、試料に赤外線レーザーを照射し、その「残光」を測定することで炭素14含有量を求める超高感度の測定法が考案・実証された。費用は数分の1ですむ。なお、この「残光」は、正確には飽和吸収キャビティリングダウン光と呼ばれ、この測定法は、炭素以外の同位体分析にも応用できる。
Editorials
チューリング生誕100周年
今年はアラン・チューリングの生誕100周年にあたる。人類史上最高の知性の1人と見なされる彼の多くの業績を、これを機会に再確認したいと思う。
Research Highlights
News
Y染色体消滅説に反論
ヒトのY染色体は、2500万年間でたった1つの遺伝子を失っただけだった。
ついにゴリラのゲノムを解読
ゴリラのゲノム塩基配列が解読された。人類進化の道筋を解明するための新たな手がかりとなるだろう。
光メモリーの集積チップ実現へ
消費電力が少なく、データ保持時間が長い光メモリーの集積チップ化で、ネットワークの律速段階をクリアできるかもしれない。
マリファナが記憶を障害する機構
マリファナがどのように短期記憶を障害するのかが明らかに。
南極の氷底湖についに到達
南極の氷の底にあるボストーク湖をめざして1990年代から掘削を進めてきたロシアチームが、とうとう、この湖に到達した。
NASAが本命視する原子力宇宙船
米国学術研究会議は、NASAが優先すべき宇宙技術開発分野について報告書を作成し、原子力宇宙船の実現を最優先課題の1つとした。
思慮に欠ける日本の研究所統廃合計画
研究開発系独立行政法人の統廃合計画は、支出削減はかけ声だけで、改革の意味さえ明確ではない。屋上屋を架すで官僚主義が助長され、研究の質が低下するおそれがある。
News Features
クラゲ大襲来
クラゲの大発生は、海が病んでいるせいだ — と警告する生物学者たちがいる。すでに手遅れなのだろうか。
異端を正統に変えた女性科学者
折りたたみ方を誤ったタンパク質は、疾患発症の原因となる。それはまた、進化の推進力となる場合もある。Susan Lindquistのこうした考え方は、まさに既存の常識に挑戦するものだった。 彼女の挑戦は続き、それに対する批判もやまない。
Japanese Author
シナプスの活動を一括して調べることで、神経回路の緻密な配線メカニズムに迫る!
言語、記憶、感情などの高次機能を発揮する脳の回路。その回路を構成する膨大な神経細胞は、混線やロスなく確実に情報をやりとりするとみられている。高精度な配線と回路編成は、いったいどのようにして行われるのか。東京大学大学院薬学研究科の池谷裕二准教授は、シナプス活動を一斉に観察できる手法を開発し、その解析により、緻密な回路編成の仕組みの一端を明らかにした。
News & Views
地球サイズの惑星が見つかった
地球とほぼ同じ大きさの太陽系外惑星がついに見つかった。この惑星は太陽とよく似た星の周りを回っており、地球とよく似た生命を育んでいる惑星の発見へとつながっていくはずだ。
放射性炭素14の超高感度測定法
炭素14(14C)は微量の放射性同位体で、大気中の炭素の1兆分の1しか存在しない。今回、このさらに25分の1という低濃度でも検出できる光学的方法が開発された。新たな研究手段としても、期待が高まっている。
News Scan
好みのうるさいランと菌
菌根菌との敏感な関係が、ランの成長を左右する
4万4000基の電波望遠鏡アレイ
ETも探す大型電波望遠鏡が完成する