バイオテクノロジー:SARS-CoV-2の中和抗体を調べる安全で迅速な検定法
Nature Biotechnology
2020年7月23日
Biotechnology: A safer, rapid assay for studying SARS-CoV-2 neutralizing antibodies
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を標的とする中和抗体を調べる簡単で迅速な検定法の報告が、Nature Biotechnology に掲載される。この検定法は生きたウイルスを扱う必要がなく、シンガポールと中国・南京の2つのCOVID-19患者グループで有効性が確認された。従来の中和抗体の検定法に比べてはるかに速く、結果が出るのに1〜2時間しかかからず、特殊なバイオセーフティー実験室で行う必要がないという。
SARS-CoV-2の感染率や集団免疫、防御免疫を簡単に検査・観察するために、またワクチンの効果を臨床試験や大規模接種後に調べるためにも、中和抗体を検出する迅速な方法が緊急に求められている。
現在の代表的な中和抗体検定法では、生きたSARS-CoV-2をバイオセーフティーレベル(BSL)3の封じ込め実験室で扱う必要があり、また時間がかかり、結果が出るのは2~4日後になる。中和抗体を検出するには、偽ウイルスを利用するウイルス中和試験という別の方法があり、BSL2の実験室で行えるが、生きたウイルスと細胞を使う必要があるのは変わらない。
Lin-Fa WangとDanielle Andersonたちは、生きたウイルスや細胞を全く使わないで済む、代替ウイルス中和検定法を開発した。この方法は全行程が1〜2時間で終わり、BSL2の実験室、すなわちELIZA法と同じ実験室で行うことができる。ウイルスのスパイクタンパク質から精製したRBDと宿主細胞の受容体ACE2を使って、酵素を結合させた免疫吸着検定用のプレートで、ウイルス–宿主の相互作用を模倣する。この相互作用は、従来のウイルス中和試験や偽ウイルスによるウイルス中和試験と同様に、患者や動物の血清中の特異的中和抗体によって阻害される。今回の検定法では、中和力のある抗体と、RBDに結合はするがウイルスを中和できない抗体との区別も可能である。
著者たちは、COVID-19から回復した患者のグループ2つ(1つはシンガポールのCOVID-19に罹患した患者175人と健常な対照者200人、もう1つは中国の南京のCOVID-19に罹患した患者50人と健常な対照者200人)で、この検定法の有効性を検証した。著者たちは、さまざまなパネルについて調べ、この検定法が、COVID-19に対する抗体応答と他のヒトコロナウイルス感染に対する抗体応答とを識別できることを確認した。この検定法は、99.93%の特異性と95~100%の感受性をもつことが分かった。著者たちは、この検定法のSARS-CoV-2に対する特異性を以前のSARSウイルスと対比して調べ、そのために2003年のSARS流行から回復した患者から血清を集めて使ったが、SARSの中和抗体が17年後になっても検出されることが分かった。
このサロゲートウイルス中和検定法は、従来のウイルス中和検定に完全に取って代われるものではないかもしれないが、精度は良好であり、著者たちは、場合によってはCOVID-19を調べる多くの面で、より幅広いコミュニティーにとって使いやすいものなるかもしれないと述べている。
doi: 10.1038/s41587-020-0631-z
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