注目の論文

宇宙生物学:火星の氷内における微生物の生息地としての可能性

Communications Earth & Environment

2024年10月18日

Astrobiology: Potential microbial habitats in Martian ice

火星の表面に露出している塵を含む氷は、光合成を行う生命体が存在するために必要な条件を提供していることを示すモデリング研究を報告する論文が、Communications Earth & Environmentに掲載される。この研究結果は、火星の生命探査においては、中緯度に位置する氷の堆積地が重要な場所となる可能性を示唆している。

太陽からの有害な紫外線放射レベルが高いことから、現在の火星の地表での生命の存在はほぼ不可能である。しかし、十分な厚さの氷層は、この放射線を吸収し、地表下で生きる細胞を保護することができる。このような条件下での生命は、いわゆる放射線下での居住可能な領域に存在する必要がある。すなわち、光合成に必要な可視光を十分に受け取れるほど浅く、かつ紫外線放射から保護されるほど深い場所である。

Aditya Khullerらは、火星で観測された塵の含有量と氷の構造を持つ氷において、このような放射線下での居住可能な領域が存在しうるかどうかを計算した。その結果、非常に塵の多い氷では太陽光が遮られすぎるが、0.01–0.1%の塵を含む氷では、居住可能な領域が氷の深さ5–38センチメートル(氷の結晶の大きさや純度による)に存在しうる可能性があることが分かった。より透明な氷では、2.15–3.10メートルの深さに、より広範囲の居住可能な領域が存在するかもしれない。著者らは、氷の中の塵の粒子が、最大約1.5メートルの深さで局所的な融解を時折引き起こし、光合成生物が生存するために必要な液体の水を提供しているだろうと説明している。著者らは、火星の極地はあまりにも寒冷であるため、このプロセスは起こりえないが、中緯度地域(およそ30度から50度の緯度)では地下での融解が起こりうることがあると示唆している。

著者らは、理論上居住可能な領域が存在する可能性があるからといって、火星に光合成生物が存在している、あるいは過去に存在していたことを意味するわけではないと警告している。しかし、火星の中緯度地域で露出した氷がわずかに見られることは、今後の生命探査の重点地域となるかもしれないと示唆している。

Khuller, A.R., Warren, S.G., Christensen, P.R. et al. Potential for photosynthesis on Mars within snow and ice. Commun Earth Environ 5, 583 (2024). https://doi.org/10.1038/s43247-024-01730-y
 

doi: 10.1038/s43247-024-01730-y

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