Press release

日本の発表論文数に回復の兆しが見られることが、最新のNature Indexから明らかに

2023年3月9日

Nature の特別冊子であるNature Index 2023の最新データから、日本の科学・技術・エンジニアリング・数学の分野(STEM :  Sicence, Technology, Engineering and Mathematics)の研究に回復の兆しがあることが明らかになりました。Nature Indexは、日本の今後の科学の政策およびトレンド、さらには機会と課題を調べたものです。

世界第3位の経済大国である日本は、研究領域で継続してリーダーシップを発揮して然るべきですが、直近の約10年の間、Nature Indexのデータからは、高品質な研究に関して、日本は世界との競争において苦戦が続いていることが分かっています。日本は、この10年、ドイツや英国のような経済規模のより小さな国と比較しても、科学と研究で遅れを取っており、Nature Indexによって計測される発表論文数は2015年以降低下し続けており、Nature Indexの最新データでも同様の傾向が見られます。Nature Indexの主要な指標*の1つである、日本のAdjusted Share**は、2021年に3,185に減少し、アジア・パシフィックの発表論文数に占める日本の割合は、2015年の21.4%から2021年にはわずか12.6%まで減少しました。

* Nature Indexの特徴的な指標であるS)share(シェアは、機関、都市、国・地域に割り当てられた論文の小数カウントで、その機関や地域に所属する著者の割合を考慮しています。
** Adjusted Share(調整後のシェア)は、Nature Indexに掲載されている論文の総数の年間変動を考慮しています。詳細については、natureindex.com/glossaryをご覧ください。

しかし、こうした減少が見られるにもかかわらず、日本の科学が転換点にさしかかっている兆しがあり、生命科学分野では良好な論文発表数となっています。。Nature Indexの論文の総数の年間変動を考慮したAdjusted Shareは、2021年は2019年より高く、2020年の日本の全体のAdjusted Shareは2019年より4.1%上昇しました(生命科学分野のAdjusted Shareは10.5%上昇)。

研究領域から創設されたスピンオフ企業の複数の成功例があり、若手研究者の個々のニーズに合わせた支援を集中的に行うという取り組みは成果を上げています。Nature Indexは、これからの時代を担う科学者たちの中で、5人の成功例に光を当てています。

日本政府の大学10兆円ファンド(基金)制度は、米国のアイビー・リーグ大学で実施されている基金モデルに着想を得て、大学研究資金を押し上げるためのものであり、トップクラスの大学の研究の回復がさらに促進されると期待されています。ただし、課題については変わっておらず、単に研究資金を投入するだけでなく、複雑な解決策が求められています。さらに、学術の独立性の問題や、資金を必要とするすべての日本の大学がその利益を十分に享受することができるかが懸念されています。

日本は自動化の超大国として評判が高いにもかかわらず、日本の大学はロボット工学のブレイクスルーに関して遅れを取っています。Nature Indexのランキングによれば、日本の国全体のShareでは世界第5位ですが、AIとロボット工学の分野に限定すると、日本は第7位です。2015〜2021年のShareを見ると、AIとロボット工学の分野で世界トップ30にランクインしている日本の研究機関はありません。他方、例えば韓国は、2015〜2021年でAIとロボット工学のShareが1,138%増加したのに対し、同期間の日本の増加率は397%でした。日本が巻き返しを図るためには、このAI革命を、歴史的に得意とするロボット工学の研究に取り入れる方法を見つけることが極めて重要です。今日の日本の科学全般についても、同様です。日本は今も見事な成果を上げ続けていますが、こうした成果は脆いところがあり、これからの継続を確かなものにするためには、継続的な育成が必要です。

Nature Indexの創設者である、David Swinbanksは、このことを振り返って次のように述べています:「このNature Indexの特別冊子では、2020年に日本の科学にわずかながら上昇の傾向が見られたのに加え、研究セクターの適応力が示されています。特に生命科学分野の研究スピンオフを中心とした日本のイノベーションや、対象を絞った政府の投資による若手研究者への支援が、研究成果に有益な効果を与えているのを確認できたことは素晴らしいことです。このような進歩は日本の研究者を正しい道へと導きましたが、将来的に全体を好転させるためには、これを継続していく必要があるでしょう。」

Nature の特別冊子であるNature Index 2023はこちら

編集者への注記: Nature Indexは、研究の質と機関のパフォーマンスを検討する際には、そのほかの多くの要素を考慮しなければならないことを認識しています。Nature Indexの指標のみを機関や個人の評価に使用することを推奨しておりません。Nature Indexのデータとメソッドは透明性があり、natureindex.comのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスにもとづいて利用可能です。

Nature Indexについて

2014年11月に初公開されたNature Indexは、所属する著者および機関の関係を示すデータベースです。Nature Indexは、独立した研究者グループによって選ばれた、82の質の高い自然科学ジャーナルに掲載された研究論文への貢献度を追跡します。これらのジャーナルは、自然科学における主要な研究者58名の委員会によって選出されました。委員会は、自身の優れた研究成果を最も発表したいジャーナルを推薦しています。この選出基準は、世界中の6,000人を超える科学者の調査によって検証されました。Nature Indexの82のジャーナルは、Web of Science(クラリベイト・アナリティクス社)の自然科学を網羅するジャーナルの4〜5%を占め、自然科学ジャーナルへの総引用の30%近くを占めています。詳細は、Nature Indexのジャーナルリストをご覧ください。Nature IndexのAnnual Tablesは、2016年より、毎年一回発表しています。
Nature Indexは、機関レベルおよび国・地域レベルでの発表論文の絶対数および割合数を提供します。そのため、質の高い研究成果および共同研究のグローバルな指標となります。Nature Indexのデータは定期的に更新され、直近12か月のデータは、natureindex.comのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスにもとづいて利用可能になります。 データベースは、シュプリンガー・ネイチャーによって管理されています。詳細につきましては、Nature IndexのFAQをご覧ください。
Nature Indexでは、研究成果発表数の指標として以下の種類のカウント法を採用しています:
Count(カウント)(以前の名称:Article count(AC))– 論文において、ある国ないし機関から1人でも著者として名前が挙げられていれば、その国ないし機関の論文1点(Countを1)として数える計算方法。その論文に著者が1人しかいなくても、100人の著者がいても、それぞれの著者の所属国(または機関)において論文1点として数えられることになるため、同じ1本の論文が、複数の国(または機関)においてCountとして数えられることを意味します。
Share(シェア)(以前の名称:Fractional count(FC))– Shareは、ある論文に対する各共著者の相対的貢献度を考慮に入れる方法。論文1本につき最大Shareは1.0です。この1点分を、共著者全員が等しく貢献したという仮定のもと、共著者間で等しく分けます。例えば、10人の共著者がいる論文の場合、各共著者はそれぞれ0.1分のShareを割り振られることになります。(Nature Indexは、国、地域、または機関による論文への貢献を収集し、それらが2回以上カウントされないようにするために、Shareを使用します。機関のShareの合計は、個々の所属著者のShareを合計して計算されます。この計算法は、国と地域で同じですが、一部の機関は海外に研究拠点があり、ホスト国・地域の合計にカウントされるため、複雑になっています。)

ネイチャー・ポートフォリオについて

ネイチャー・ポートフォリオは、生命科学・物理学・化学・応用科学など多岐にわたる分野で高品質のジャーナル、オンラインデータベース、研究者を対象としたサービスなど、科学界への貢献を目的としたサービスから成るポートフォリオを提供しています。

1869年創刊のNature は、世界有数の週刊の国際科学雑誌です。さらに、ネイチャー・ポートフォリオは、Nature リサーチ誌とNature レビュー誌をはじめ、オープンアクセスの主要な学際的ジャーナルであるNature Communications 、Scientific Reports など、研究機関と学会の協力によるNature Partner Journalsも出版しています。これらのジャーナルには、世界で最も重要な科学的発見が掲載されています。

オンラインのnature.comには、1カ月当たり900万人を超えるユーザーが訪れ、Nature のニュース記事やコメント記事、そしてNature Careersなどの科学求人サイトにアクセスしています。また、ネイチャー・ポートフォリオは、オンラインおよび対面によるトレーニングや専門家による英文校正サービスなど、さまざまな研究者支援サービスも提供しています。

詳しい情報については、nature.comをご覧いただき、@NaturePortfolioのフォローをお願いいたします。ネイチャー・ポートフォリオは、シュプリンガーネイチャーの一部です。

シュプリンガーネイチャーについて

シュプリンガーネイチャーは、180年以上にわたり、研究コミュニティー全体へ最良のサービスを提供することによって発見の進展に貢献してきました。研究者が新しいアイデアを公開することを支援するとともに、公開するすべての研究が重要でロバストであり、客観的な精査にも耐え、関心を持つすべての読者にもっとも良いフォーマットで届き、発見、アクセス、使用、再利用、および共有されるようにします。私たちは、テクノロジーやデータの革新を通じて図書館員や研究機関をサポートし、学会に出版を支援するための優良サービスを提供します。

学術出版社として、シュプリンガーネイチャーは、シュプリンガー、ネイチャー・ポートフォリオ、BMC、Palgrave Macmillan、Scientific Americanなどの信頼されたブランドを有しています。詳しい情報は、springernature.com をご覧いただき、@SpringerNature のフォローをお願いいたします。

本件に関するお問い合わせ

三木 律子
シュプリンガーネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: ritsuko.miki@springernature.com

「プレスリリース」記事一覧へ戻る

advertisement
プライバシーマーク制度