Press release

シュプリンガーネイチャーによる研究公正に関する最新の調査から、研究データのトレーニングに対する研究者の需要が世界的に高まっている傾向が明らかに

2024年5月24日

学術出版社の日本を対象にした研究公正に関する最新の調査から、日本の研究者が、高い割合で研究公正に関するトレーニングを受講できる状況であることが明らかになるとともに、研究データの管理に関するトレーニングが最も満たされていないニーズであることが浮き彫りになった、これまでの調査結果と今回の結果が重なりました。

東京|ロンドン 2024年5月24日

シュプリンガーネイチャーによる、日本を対象にした研究公正に関する最新の調査から、日本の研究者は、研究データの管理に関する支援が不足していることが明らかになりました。そして、この傾向は、当社がほかの国で実施した国内調査にも反映されています。本調査の結果によると、日本の研究者の73%は、研究公正に関するトレーニングを受講できる状況にあり、この結果は、これまで数か国で実施したどの国の調査の中でも最も高い割合でした。しかし、より多くの支援が求められているトレーニング分野の中では、研究データに関するものが、引き続き大きな割合を占めています。*1 これには、データの管理に関する次のテーマが含まれています:「研究データのアクセス、所有、共有、再利用に関する方針(35%)」、「データの著作権・使用許諾(33%)」、「長期保管とデータ管理の戦略(30%)」および「作成データの種類とその取得方法の決定(29%)」。

本調査では、はじめに研究公正に対する理解度を調査したところ、回答者の62%が、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)が定めた研究公正の定義*2は、自身の研究公正に対する理解を「極めてよく反映している」、あるいは、「とてもよく反映している」、と考えていることがわかりました。また、回答結果から、「研究不正を避ける(30%)」および「研究資金の適切な使用(16%)」が研究公正に関連する最も重要な2つの考え方や実務であることが明らかになりました。

今回の研究公正に関するトレーニングの調査について、ほかのおもな結果は次のとおりです。

  • トレーニングを受講したことがある回答者のうち、95%がそのトレーニングの受講が必須だったと回答。また、回答者の大半が研究者のキャリアにおいて、どこかの段階でトレーニングを義務づけるべきだという意見で一致した。
  • 80%近くの回答者が、自身の所属機関が実施しているトレーニングが効果的だと回答。
  • 日本の回答者の半数以上(67%)が、実施されたトレーニングの種類は、オンラインのみで、講師による対面での実施はなかったと回答。

日本科学振興協会(JAAS)研究環境改善WG理事である田中 智之氏は、本調査について、次のように述べています。

「調査では、研究公正に関するe-ラーニングの受講率が極めて高いことが明らかになりましたが、これは公的な競争的研究費の申請の際に受講が義務づけられているためと考えられます。このことは、日本の研究者の研究公正に関する基礎的な知識レベルが高いことを示唆していますが、一方で、研究公正の意義として研究の質の向上や社会への責任をあげる回答者の比率は低く、不正行為を避けるという受動的な姿勢の研究者が比較的多いこともうかがえます。これからの研究公正の教育、訓練においては、研究者としてのプロフェッショナリズムを喚起することが求められるでしょう」

シュプリンガーネイチャーのDirector of Research Environment AlliancesであるEd Gerstner(エド・ガーストナー)は、本調査について、さらに次のように述べています。

「私たちがこのような調査を行う意図は、研究者が生み出す研究の公正性を保証するために、どれだけ充分な体制が整っているかを議論する出発点とすることです。本調査は、オーストラリアをはじめとした世界中のステークホルダーとの対話の中で、研究者がどのように研究公正のトレーニングを受けているのか、また、どのような支援を必要としているのかについて、私たちはほとんど知らないということが示唆されたことから開始されました。本調査により、日本の研究者の大多数が何らかのかたちで研究公正に関するトレーニングを受講しており、また、実際に受けることが期待されていることが判明しました。しかし、調査を実施したほかの国でもそうであったように、特にデータのオープンな共有といった、オープンサイエンスの実践に関するトレーニングに関しては、さらにできることがあることも明らかになりました」

今回の研究公正の調査で示された研究データに関するトレーニングの必要性は、日本の研究者の10%しかデータのFAIR原則*3を熟知していない、ならびに日本の研究者の24%がデータ管理計画について認識している、という2023 State of Open Dataの結果と通じています。この結果は、同報告書に含まれる国の中で最も少ない割合です。

シュプリンガーネイチャーのAcademic Engagement Director (日本)である浦上 裕光は、次のように述べています。

「研究コミュニティーにおけるオープンデータ実践の増加や、日本の「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」に記されている査読論文にひもづく根拠データの掲載の義務化に伴い、研究データの取り扱いに関するサポートやトレーニングの必要性が高まる可能性があり、本調査とState of Open Data 2023の結果はそれを示唆しています。また、本調査から国内研究者は研究公正を不正行為の防止と結びつけて考えていることが多いことがわかりました。これは重要な認識ですが、研究公正は、研究や研究コミュニティーへの信頼、より効果的に利活用・応用できる研究を促進するグッドプラクティスとしても認識されるべきです」

今回日本で実施された調査は、研究公正について研究者が何を知っているか、また、どのようなトレーニングが提供されたかを探るために、オーストラリア(2022年)、英国と米国(2023年)で実施された調査に続くものです。本調査は、日本科学振興協会のご協力のもと、2023年12月から2024年2月の間に実施しました。調査報告書は、日本の445以上の機関にわたって、1,190の参加者からの回答をまとめています。

これらの調査は、研究公正のトレーニングやオープンデータに関する見識を提供することで、良い研究実践を世界的に支援するというシュプリンガーネイチャーの公約の重要な部分を担っています。

注釈

*1 支援が求められているトレーニング分野のうち、研究データに関連する内容のものが上位10項目中4項目であった。

*2 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)は、研究公正を「研究の提案、実施、評価、研究結果の発表において、規則、規制、ガイドライン、および一般的に受け入れられている専門家の規範や規範の遵守に特に注意を払いながら、誠実で検証可能な方法を用いること」と定義している。

*3 FAIRデータとは、FAIR(Findable〔見つけられる〕、Accessible〔アクセスできる〕、Interoperable〔相互利用できる〕、Reusable〔再利用できる〕)の原則を満たすデータのことである。

研究公正のトレーニングに関する調査結果はFigshareでご覧いただけます:https://doi.org/10.6084/m9.figshare.25880314

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編集者への注記

研究公正に関するトレーニングの調査実施の背景

2019年にNature は、オーストラリアの研究コミュニティーのあらゆるところから関係者を集め、研究公正と研究実践におきてのグッドプラクティスについて議論する会議を開催しました。この会議の最も印象的な成果のひとつは、研究公正に関する研究者の理解度やトレーニングについて、誰もほとんど知らないということに気づいたことでした。そこで、私たちは、世界各地の研究者を対象とした一連の調査を開始し、調査対象となった各国の研究コミュニティーにおける研究公正の理解度や、関連するトレーニングのレベルを明らかにすることを目的にしました。

State of open data surveyの詳細について

世界で6,000以上の回答者(うち、日本から313の回答)

日本、米国、およびエチオピアの分析については次のレポートでご覧いただけます:

"The Global Lens: Highlighting National Nuances in Researchers’ Attitudes Toward Open Data"
The State of Open Data April 2024
DOI: doi.org/10.6084/m9.figshare.25569453

関連資料:

オープンデータに関する調査における日本からのおもな結果:

  • データを共有する動機として、15%がデータの完全な引用と回答。
  • 回答者の9%が、データを共有することで信用を得られると考えている。
  • データ共有の国家的な義務化については、14%が強く支持し、ほぼ半数(42%)が支持している。したがって、 回答者の大半は国家的義務化に対して中立あるいは反対のどちらか(58%)であり、世界全体ではほぼ3分の2(64%)である。これらの結果は、研究者が国の義務づけが求める期待に応える準備ができていないと感じていることを示唆している。
  • 研究データの公開に関する方針を遵守する方法について、学部・学科または出版社のいずれかからもっと指導を受けたいと回答した研究者は 20%であった。
  • 日本の研究者の64%が、実用的なデータ管理計画を策定するためには、トレーニングが必要であると回答。

この調査により、特に、データへのアクセス、所有権、共有と再利用、データ保存の著作権・ライセンス、データ管理戦略に関する方針の理解など、特定のニーズに焦点を当てた新しいトレーニングによって、今後日本の研究者をよりよくサポートする方法について有益な洞察を与えることが期待されます。

研究データとは、スプレッドシート、文書、画像、ビデオ、音声など、研究プロジェクト、研究、出版をサポートするファイルのコレクションを指します。

オープンデータやデータの共有に関する詳細は、Open dataのページをご覧ください。

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そのほか関連するリンク:

日本科学振興協会(JAAS)について

日本科学振興協会(JAAS)は「日本の科学をもっと元気にする」ためにあらゆる属性の人々が参加することのできる組織として2022年2月に設立されたNPO法人です。これからの社会では科学の重要性はますます高まることが予想されますが、一方で科学が社会にシームレスに融け込むにはたくさんの課題を乗り越える必要があります。そのために必要な対話、そして協働の場を設けることが私たちの使命です。

シュプリンガーネイチャーについて

シュプリンガーネイチャーは、180年以上にわたり、研究コミュニティー全体へ最良のサービスを提供することによって発見の進展に貢献してきました。研究者が新しいアイデアを公開することを支援するとともに、出版するすべての研究が重要で着実であり、客観的な精査にも耐え、関心をもつすべての読者にもっとも良いフォーマットで届き、発見、アクセス、使用、再利用、および共有されるようにします。私たちは、テクノロジーやデータの革新を通じて図書館員や研究機関をサポートし、学会に出版を支援するための優良なサービスを提供します。

学術出版社として、シュプリンガーネイチャーは、シュプリンガー(Springer)、ネイチャーポートフォリオ(Nature Portfolio)、BMC、パルグレイブ・マクミラン(Palgrave Macmillan)、サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American)などの信頼されたブランドを有しています。

詳しい情報は、springernature.com をご覧いただき、@SpringerNature のフォローをお願いいたします。

本件に関するお問い合わせ

宮﨑 亜矢子
シュプリンガーネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com

英語プレスリリース:Springer Nature's latest regional research integrity survey shows growing global pattern around researcher needs for data training

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