Press release

【Springboard】研究と出版における公正性の推進

2024年11月5日

Steven Inchcoombeが、オープンサイエンスにおける公正な未来の必要性について論じました。

2024年10月25日
著者:Steven Inchcoombe(スティーブン・インチコーム)

出版における公正性の確保は、私たちが現在直面している中心的な課題のひとつです。公正性とは、論文へのアクセスや価格設定、資金調達を通じた論文著者のサポートに関することに留まるものではなく、信頼できる編集者や査読者として、あらゆる地域から多様な人材の参加を求めることや、それを支えるジャーナルなどの学術的コミュニケーションチャンネルの持続可能性に関することに限ったものでもありません。これらは最も明白な例ですが、オープンアクセスの公正性は多面的であり、研究・出版業界全体のあらゆるステークホルダーが協力し、これらの問題に正面から、持続的かつ効率的に取り組む必要があります。

現在では、私たちのほとんどが、オープンアクセスを学術的コミュニケーションの基準とすべきであるという意見に同意しています。STM(International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers)から得られた最新のデータが示すように、ゴールドオープンアクセス出版ができる機会が急速に増加しており、論文著者がその機会を得られるケースが全世界で80%近くに達しています。ただし、需要があり、進展はみられるものの、オープンアクセス出版のあるべき姿である公正性を手にするためには、すべての当事者が取り組むべきことが多く残されています。

当社による最新のオープンアクセス報告書では、出版業界による公正性のサポートを可能にする複数の手段について検討しています。

転換契約の世界的な拡大

オープンアクセス出版費と購読契約をセットとして扱う転換契約が普及するまでにはある程度の時間を要しました。また、最近では批判の対象ともなっています。しかし、転換契約はオープンアクセスへの移行だけではなく、オープンアクセスがまだ選択肢に含まれていない数多くの地域における、公正で持続可能な移行を推進するおもな原動力となっていることが証明されています。転換契約には、あらゆる学術分野と地域において、論文著者による資金調達の問題を解決する力があり、現在、コロンビアやメキシコ、ボツワナ、南アフリカ、タイ、およびインドなどの国々において普及が加速していることが確認できます。ただし、そのメリットは、普及の拡大や各国における移行に留まるものではありません。STMから得られたデータが示すように、転換契約を通じて年間に発表されるオープンアクセス論文の件数は増加しています(2023年には約30万件)。また、当社の転換契約に関するデータが示すように、これまでペイウォール(課金の壁)に阻まれた論文にアクセスすることができなかった研究者によるアクセスが増加しています。2023年にダウンロードされたシュプリンガーネイチャーの転換契約によって出版されたコンテンツのうち、70%が匿名ユーザーによるものでした。以上のデータが物語るように、転換契約は公正なオープンアクセス環境を推進するうえで、直接的かつ多大な影響を与え続けているのです。

オープンアクセスに向けた新たなジャーナルモデルとアプローチによる実験

オープンアクセスは、万人に当てはまるアプローチではありません。一方、転換契約は地域や国、研究者やパートナーを問わず、ほとんどのケースで十分に機能しています。当社は、数多くのコミュニティージャーナルや、業界初となる完全オープンアクセスジャーナルの一部を出版し、業界の基準を設定した出版社として、スケーラブル(拡張性のある)で品質の高い新たなモデルによる実験を行っていくこともオープンアクセスの発展に向けた鍵になると強く信じています。

このような例のひとつとしてあげられるのが、「Cureus」ジャーナルのポートフォリオです。その革新的な出版モデルでは、洗練された関連の投稿論文を査読付オープンアクセス論文として無料で出版することを可能としています。また、それ以外の投稿論文については、必要とする編集サービスの料金のみを支払えば出版することができます。2023年、同ジャーナルには17,000件以上のオープンアクセス論文が掲載されました。また、そのうち3分の1は無料であり、残り3分の2は平均費用340 USドルで出版されました。この価格は、多くの中低所得国(LMIC:Low middle income countries)においても実現可能なものです。

当社をはじめとする出版社には、多くの人々に対して料金の免除や割引を提供し、さまざまな出版オプションの選択を追求してきた長年にわたる実績があります。シュプリンガーネイチャーは、代替となる透明性の高い資金調達協定を活用することで、論文著者がオープンアクセス論文を無料で出版できるダイヤモンドオープンアクセスジャーナルを多数発行し続けています。2023年には、論文著者が費用を負担することなく、10,000件以上のオープンアクセス論文が出版されています。また、同時に、当社の完全オープンアクセスジャーナルでは、2,600万ユーロを超える論文掲載料(APC:Article Processing Charge)を免除しています。さらに、Natureファンドを通じ、低所得国(LIC:Low income country)や中低所得国(LMIC)70カ国の論文著者に対しては、NatureまたはNatureリサーチ誌に論文が受理されると自動的に論文掲載料の免除資格が得られるよう支援しています。

最近では、2024年3月、より持続可能で拡張可能な形での価格負担の軽減に対応するため、国別で論文掲載料価格を設定する取り組みを基盤とした新たなオープンアクセスパイロット事業も開始しています。当社は、この取り組みから学び、できるだけ多くの研究者のためにどのように活用できるかを検討しています。

幅広い多様な人材による研究への参加

学術コミュニティーの一員として、私たちは、価格負担の改善だけでなく、知識創出への幅広い人材による参加を可能にする責任も担っています。当社はアクセスに対する障壁を打破するべく、オープンアクセスの利用を増やしていますが、すべての研究者による研究出版システムへの全面的な参加とリプレゼンテーション(代表)に向けた障壁の打破に対しても、私たちは全力で取り組んでいかなくてはなりません。

これは、「Publisher Association's Diversity, Equity and Inclusion (DEI)」計画出版における包括性および多様性に対する行動に関する共同コミットメントなど、業界のコミットメントを通じ、私たち出版セクターが極めて真剣に検討している問題なのです。シュプリンガーネイチャーも他社と同じく、多様性・公正性・包括性(DEI:Diversity, Equity and Inclusion)に対する公約の実現に向けた重点的な取り組みを継続しています。当社では、その一環として、当社の学術編集者の多様性に関するベンチマーク報告書を発行しました。特に幅広い地域を基盤とした新たな編集者の募集など、ある程度の進展はみられるものの、成すべきことはまだ多く残っています。そこで、当社では新たな「DEI in Research Publishing」ハブを利用して当社の編集者をサポートし、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)への対処を支援するリソースの無料での提供や、グローバルな研究コミュニティーの変化に対する意識を向上させる活動を実施しています。

出版社は、すべての論文著者のニーズを満たす持続可能で公正なオープンアクセス出版オプションを実現する取り組みにおいて間違いなく役割を果たさなくてはなりません。しかし、先に述べたように、オープンアクセス、最終的にはオープンサイエンスがその可能性を最大限に発揮するためには、十分な規模で多くの人が直面している課題に対処し、オープンアクセスが地域を問わず、すべての研究者にとって真に包括的なものとなるように、すべての人が行動を起こす必要があるのです。

著者について

Steven Inchcoombe

シュプリンガーネイチャーのチーフ・パブリッシング・オフィサー。オックスフォード大学マートン・カレッジで物理学を学び、PwCで公認会計士の資格を取得。1990年から2000年までインタラクティブ・データ・コーポレーションに勤務し、最終的に戦略、M&A、EMEA地域の責任者となる。その後、フィナンシャル・タイムズ紙の英国版発行人やft.comのマネージング・ディレクターなど、フィナンシャル・タイムズ・グループの役員を歴任。2006年にマクミランの取締役に就任。2007年から2013年までネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)を率い、2013年にはNPG、サイエンティフィックアメリカン、パルグレイブマクミランからなるマクミランの科学・学術部門のCEOに就任。2015年5月にシュプリンガーネイチャーが設立されると、そのネイチャー・リサーチ・グループのマネージング・ディレクターに就任し、直近では2016年3月にシュプリンガーネイチャーのチーフ・パブリッシング・オフィサーに昇進した。

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本件に関するお問い合わせ

宮﨑 亜矢子
シュプリンガー・ネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com

※ 本ブログの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。

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