転換契約が全世界のオープンアクセスによる成果の発表に短期間で影響を与えていることが明らかに
2024年12月19日
シュプリンガーネイチャーが新たに発表した白書は、転換契約が地域や学術分野を問わず、公平なオープンアクセス環境を推進するうえで重要な役割を果たしているという証拠を示しています。
ロンドン|ニューヨーク|ベルリン 2024年12月18日
シュプリンガーネイチャーが新たに発表したデータによれば、全世界におけるオープンアクセス(OA:Open Access)による成果の発表を推進するうえで、転換契約(TA:Transformative Agreements)による影響が短期間で生じており、一部の国では転換契約の初年度にオープンアクセスの利用率が最大78%まで増加したことが示されています。
新たな白書、「Accelerating open access at scale – a look at three transformative agreements」では、シュプリンガーネイチャーの転換契約全体から得られたデータを分析し、特にLYRASIS(米国)、SANLiC(南アフリカ)、CTK Consortium(スロベニア)との3つの転換契約に焦点を当てています。その結果、転換契約の発効初年度において、以下の動向が見られたことが明らかになっています。
- LYRASISでは、オープンアクセス出版が急増し、転換契約前の12ヵ月間に140報であった論文数が、転換契約発効後の6ヵ月間だけで533報に達しました。
- 南アフリカでは、転換契約の初年度に、オープンアクセスの利用率が転換契約前の10%から78%まで増加しました。
- スロベニアでは、オープンアクセスの利用率が転換契約前の19%から73%まで増加しました。
- 2023年に転換契約が発効したほかの国でも、オープンアクセス利用率が14-78%に増加し、最も大きな変化率を示したポルトガルでは6%から72%に増加しています(2)。
シュプリンガーネイチャーのVP Open Accessである Carrie Webster(キャリー・ウェブスター)は、白書について次のようにコメントしています。
「転換契約は、グローバルなオープンアクセスの実現に向けた持続可能で効果が高く、実用的な道筋であることが、証拠により引き続き明らかになっています。今回のデータが示すように、転換契約は、オープンアクセスに短期間で影響を与えるだけではなく、さまざまな学術分野や国の多様なパートナーに所属する研究者によるオープンアクセス出版を可能にし、オープンアクセスによるリーチや利用、グローバルなインパクトの強化による恩恵を研究者にもたらしています。」
「転換契約は、リソースを蓄積し、地域の状況に適応し、協力を推進することにより、すべての人々がすべての研究にアクセスすることが可能な未来に向けて大きく前進させる存在となっています。私たちは引き続き、地域のニーズを満たすように調整した契約について交渉し、よりオープンで、より公正な学術コミュニケーション環境の実現に向かって邁進する状況から誰ひとりとして取り残されることのないように取り組んでまいります」
本白書には、上記以外にも当社の最新のオープンアクセス報告書に提示したデータと一致する注目すべき所見が示されており、転換契約が果たした以下のような役割を明らかにしています。
- 購読コンテンツの利用の増加 - 各ケーススタディーの対象国の所属研究者によるコンテンツは、契約初年度に24%程度増加しました。
- 学術分野全体における公正性の向上 - 複数のシュプリンガーネイチャー転換契約において、人文・社会科学(HSS:Humanities and Social Sciences)分野の論文に占めるオープンアクセス出版の割合の増加率が2000%以上に達しました。スロベニアと南アフリカにおけるHSS分野のオープンアクセス利用率の増加率は、それぞれ600%以上と800%以上に達しました(転換契約が発効する前年の利用率はそれぞれ12%と9%)。
- 研究機関と研究者全体における公正性の向上 – 研究の集約化が進んでいない研究機関や若手研究者など、従来から資金が不足している領域の研究者を含め、オープンアクセス出版が可能な研究者が増えたことにより、公正性が向上しました。
LYRASIS契約の対象となる研究機関のひとつであるGrambling State UniversityのUniversity Digital Library学部長を務めるAdrienne Webber氏は、次のようにコメントしています。
「本契約は、歴史的黒人大学(HBCU:Historically black colleges and universities)全体の学生や教員に恩恵をもたらしています。長い間、閉め出され、新たなフォーマットでアイデアを提示することができなかった私たちに、その機会を与えてくれます。だからこそ、私たちにとって画期的な契約であると考えているのです。」
本白書において使用し、分析したデータには、企業利用データ(COUNTER 5)のほか、公開されている引用データ(Scopus、Web of Science、CrossRef)が含まれています。白書の全文は、「Accelerating open access at scale」のページからご覧いただけます。
参考リンク:
- 「日本における転換契約」のページ – 参加機関一覧をご覧いただけます
- オープンリサーチとは?基本コンセプトと取り組み
- オープンリサーチ:日本語資料 – OAファクトシートやグリーンOAとゴールドOAの違いなど、多数の資料をご覧いただけます
- 機関のオープンアクセス契約
- オープンアクセス:プレスリリースで見るタイムライン
- オープンリサーチのインパクト:Towards societal impact through open research
編集者への注記
- ポルトガルに関しては1100%増。 転換契約発効前のオープンアクセス出版の割合との比較。
- 参照国にはデンマーク、ポルトガル、スロベニアを含みます。
用語解説
- 転換契約:一般的には、論文の閲覧のために大学などが出版社に対して支払う費用を、論文出版のための費用(論文掲載料、APC;Article Processing Charge)へと段階的に転換させ、それによって論文のオープンアクセス出版の拡大を目指す契約のことを指す。
- オープンアクセス(OA;Open Access):研究成果が出版時に無料でアクセスすることを可能にするための一連の原則と実践方法。OAは、ジャーナルに掲載された論文や書籍などの研究成果をオンラインで無料で即時利用できるようにし、デジタル環境でフルに利用する権利を提供します。
- ハイブリッドジャーナル:購読型ジャーナルのうち、受理された論文をゴールドオープンアクセスで出版するオプションを著者に提供するジャーナル。オープンアクセスで出版する場合には、APCが発生します。
- ゴールドオープンアクセス(ゴールドOA):出版社のプラットフォームにおいて、論文や書籍をゴールドオープンアクセスで出版するルートです。原稿編集(コピーエディティング)や組版後の最終公開版(VOR;Version of Record)。ゴールドOAで出版された論文は、掲載後ただちにオープンアクセスとなり、プラットフォーム上にて無料で閲覧可能となります。ゴールドOAでは、原稿編集(コピーエディティング)や組版後の最終公開版(VOR;Version of Record)にアクセスできるようになります。ゴールドOAの出版は、論文掲載料(APC;Article Processing Charge)や転換契約によって賄われています。
- 論文掲載料(APC;Article Processing Charge):オープンアクセス(OA)の論文に対するAPCは、査読からコピー編集、専用サーバーでの最終論文のホスティングまで、出版プロセスのすべての段階においてさまざまなサービスをカバーしています。これに加えて、こちらの料金により、論文がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもと、オープンアクセスで公開され、すべての読者がすぐに利用できるようになります。
出版にはコストがかかります。購読ジャーナルは、コンテンツにアクセスするための料金の徴収によって出版費用がカバーされています。ゴールドオープンアクセスのコンテンツは、自由に利用できるため、費用は論文掲載料(APC)によって賄われます。APCは、論文が受理されてから出版されるまでの間に支払われ、それぞれの出版社、ジャーナル、分野によってAPCが異なります。また、掲載料や出版料を学会などのスポンサーが負担することで、APCを徴収しないジャーナルもあります。APCには、論文全文への永続的、即時的かつ世界中からのアクセスの提供に加えて、下記が含まれます。- 編集作業:査読、管理サポート、コンテンツの委託、ジャーナルの開発。
- 技術的なインフラストラクチャーとイノベーション:オンラインジャーナルシステムやウェブサイトの開発、メンテナンス、運用。
- 論文の制作:論文のフォーマット、マークアップ(タグ付け)、インデックスサービスへの登録。
シュプリンガーネイチャーについて
シュプリンガーネイチャーでは、サービスを提供するコミュニティーとの協力のもと、知識を共有し、世界に対する理解を深めることにより、進歩に貢献していることを誇りとしています。当社は数百万人もの人々に対し、書籍やジャーナル、プラットフォーム、テクノロジーソリューションを日々お届けしています。またそれにより、新たなアイデアを見いだし、発見を共有する研究者や、医学の最前線に身を置く医療従事者、学習を進化させる教育者をサポートしています。当社では、180年以上にわたり信頼を集めてきた主要ブランドや、最も厳しい基準を遵守するという断固とした公約を通じ、世界が直面する喫緊の課題に対するソリューションの加速をサポートするとともに、未来の世代にインスピレーションを与えます。
学術出版社として、シュプリンガーネイチャーは、シュプリンガー(Springer)、ネイチャーポートフォリオ(Nature Portfolio)、BMC、パルグレイブ・マクミラン(Palgrave Macmillan)、サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American)などの信頼されたブランドを有しています。
詳しい情報は、springernature.com をご覧いただき、@SpringerNature のフォローをお願いいたします。
本件に関するお問い合わせ
宮﨑 亜矢子
シュプリンガーネイチャー
コーポレート・アフェアーズ
E-mail: ayako.miyazaki@springernature.com
※ 本プレスリリースの原本(一部を除いて)は英語であり、日本語は参考翻訳です。
英語プレスリリース:Transformative Agreements show immediate impact on global open access (OA) output