【進化】高い遺伝的近縁性によって多細胞間の協力を保つ菌類
Nature Communications
2016年5月4日
Evolution: Fungi keep it in the family
特定の生物において細胞核の遺伝的近縁性が高いことによって多細胞間の協力が維持されていることが確認された。今回の研究は、菌類の一種であるアカパンカビ(Neurospora crassa)を研究対象としており、高い遺伝的近縁性によって多細胞生物の細胞間の協力が選択されるが、これとは逆に、遺伝的近縁性が低いと、細胞は個体全体に投資するのではなく、増殖のために競合することが示唆されている。この研究結果を報告する論文が、今週掲載される。
遺伝的近縁性の高いことが多細胞生物の進化の基盤をなしているという仮説が提唱されており、その正当性は、粘菌類と細菌類を用いた研究結果によって裏付けられている。しかし、近縁性の高さを実験的に操作することが難しいため、この仮説は直接検証されていなかった。
今回、Duur Aanenたちは、アカパンカビの2つの菌株、つまり、近縁関係にない細胞とのキメラ(異なる接合子に由来する細胞を有する単一の生物)を形成する能力のある菌株とない菌株を並行して進化させて、アカパンカビにおける協力の進化を調べた。この実験的条件下で、Aanenたちは近縁性の程度を変えて研究を行うことができた。キメラを形成できる菌株は、近縁性が低いという特徴があり、キメラを形成できない菌株は、単一細胞からクローン個体として発生し、近縁性が高いという特徴がある。また、(胞子収量で測定される)多細胞間の協力は、近縁性の高い菌株では変化がなかったが、近縁性の低い菌株で低下し、胞子収量は平均で3分の1に減少した。そして、近縁性の低い菌株はごまかしをする変異体(キメラを構成する他の細胞の適応度を犠牲にして自らの適応度を高める細胞)を取り込むように進化したことをAanenたちは明らかにした。
今回の実験的検証では、高い遺伝的近縁性によってごまかしが排除され、多細胞生物内の協力が維持されていることが示唆されている。
doi: 10.1038/ncomms11435
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