【考古学】初めてアメリカ大陸に渡った人類の移動経路を再考する
Nature
2016年8月11日
Archaeology: Rethinking the first migration route into America
最終氷期の終わり頃に氷床の後退によって開いたカナダ西部の回廊が、最初にアメリカ大陸に到達したヒトがたどった経路であった可能性は低いという結論を示した論文が、今週掲載される。この回廊は、初めてシベリアからアメリカ大陸に渡ったヒトの移動経路だった可能性が最も高いと長い間考えられていた。これに対して、今回の研究では、この回廊が開いたのは約14,000~15,000年前のことだったが、その当時は植物と動物が定着しておらず、それから数千年後まではヒトが移動できる環境でなかったことが示唆されている。
現在のカナダの大半と米国北部の大半にあたる地域を覆っていたコルディレラ氷床とローレンタイド氷床の間にできた無氷回廊(氷に覆われていない回廊)は、ベーリング陸橋を渡ったヒトが北米に到達できる唯一の経路だと長い間考えられていた。ところが最近得られた証拠からは、この無氷回廊が開く前から南北アメリカ大陸にヒトが存在していたことが示唆されており、初期アメリカ人の移動経路が太平洋沿岸の海岸線だったと考える者が増えた。この無氷回廊は、その後のヒトの移動における経路となった可能性があるが、この経路で南北アメリカ大陸へ移動するヒトを支援する食料源や住まいとして十分だったかどうかは明らかになっていない。
今回、Eske Willerslevたちは、回廊の中で最後に無氷状態になった領域に当たるカナダのチャーリー湖(ブリティッシュ・コロンビア州)とスプリング湖(アルバータ州)から採取された9点の湖沼堆積物コアを分析した。Willerslevたちが植物性遺物と環境DNAから再構築した当時の環境によれば、この回廊が植物に覆われたのが約12,600年前のことで、同時期にバイソンやマンモスなどの動物が生息しており、初期アメリカ人が狩猟によって得ていた重要な食料源だった。以上の新知見からは、南北アメリカ大陸に初めて渡ったアメリカ人がこの経路をとった可能性は低いが、その後のヒトのグループがこの南北方向の経路を使った可能性があることが示唆されている。
doi: 10.1038/nature19085
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