パートナーによる暴力に進化的起源はあるのか?
Nature Human Behaviour
2018年8月7日
The evolutionary roots of intimate partner violence?
ボリビアの先住民チマネ族では、親しいパートナーによる暴力(近親者間暴力)を受ける女性たちの方が、暴力を受けていない女性たちよりも平均して多くの子どもを産んでいることを示唆する論文が、今週掲載される。
近親者間暴力は、繁殖能力を持つ個々のパートナーに直接的な害を及ぼすにもかかわらず、広く見られる現象である。そうした暴力には、教育レベルや、女性の権利状況、アルコール・薬物の乱用といった、いくつかの行動的・社会経済的要因が関連付けられている。これらの諸要因は、近親者間暴力の重要な引き金ではあるが、基盤となる進化的な機序が存在するか否かは不明である。
Jonathan Stieglitzたちは、ボリビアのアマゾンに住むチマネ族の5つの村の異性愛の女性105人にインタビューを行った。チマネ族は、暴力や男性の社会的優位性に関する歴史がそれほど強く見られない文化を持つことで知られる。調査の結果、婚姻関係にある親密なパートナーからの暴力を受ける女性たちは、暴力を受けない女性たちより、平均して多くの子どもを産んでいることが判明した。このパターンは、カップルが幼少期に近親者からの暴力を受けていたか否か、また男性側に他の同性に対して過去に暴力を振るった経験があるか否かとは無関係に見られた。過去の調査結果では、チマネ族の女性が求める家族サイズは、平均して男性よりも小規模であることが示されていることから、Stieglitzたちは、理想の家族サイズをめぐる意見の対立がある場合に、近親者間暴力が子の数を増やすよう作用している可能性があると示唆している。
今回の研究では、近親者間暴力の究極的(ないし進化的)な駆動要因に加えて、経済的・社会的なストレスなどの直接的な機序もしくは動機、さらには暴力に対する考え方(いずれも進化上の適応度を高める基盤となる可能性がある)にも焦点が合わせられた。Stieglitzたちは、近親者間暴力がもたらす、パートナーおよび家族にとっての進化上の損失と利益が明らかになれば、そうした暴力を防ぐための組織的な取り組みに役立つのではないかと結論している。
doi: 10.1038/s41562-018-0391-7
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