医学研究:癒着胎盤スペクトラム障害を発見するための非侵襲的方法
Nature Communications
2021年8月4日
Medical research: Non-invasive method for detecting placenta accreta spectrum disorders
癒着胎盤スペクトラム障害(PAS)とは、妊娠中に胎盤の一部である絨毛が子宮筋層の表面に癒着、または子宮筋層に侵入、あるいは子宮筋層を貫通したために、胎盤が子宮壁に強固に付着して剥離しない病態をいう。このPASを早期発見するための非侵襲的な方法を発表する論文が、今週、Nature Communications に掲載される。今回の成果は、出産時の母親の死亡につながる恐れのあるPASの早期診断に役立つ可能性がある。
PASには、癒着胎盤、嵌入胎盤、穿通胎盤が含まれ、妊娠中に胎盤が子宮筋層に深く侵入することで発生し、出産後に胎盤が子宮壁から剥離しなくなる。そのために重篤な出血が起こり、母親が死亡する場合もある。現在用いられているPASの検出法は、効果的だが、必ずしも決定的な方法とは言えず、少資源環境では利用できないこともある。
今回、Hsian-Rong Tseng、Yazhen Zhuたちは、以前に開発したNanoVelcro Chipを最適化した。このNanoVelcro Chipには、血液中の栄養膜細胞(胎盤を構成する細胞)を検出する抗体で被覆された薄いシリコンナノワイヤーが含まれている。栄養膜細胞は、胎盤の発育に伴って、単一の細胞か細胞塊として母体の血流に放出され、その存在量の増加はPASを示している可能性がある。著者たちは、PAS、前置胎盤(胎盤が子宮口を覆っている状態)または正常胎盤の診断を受けた妊婦計168人の血液検査を行った。その結果、PASの診断を受けたグループの血液中の単一の栄養膜細胞と栄養膜細胞塊の数は、他の2グループよりも多かった。また、妊娠初期において、血液中の単一の栄養膜細胞と栄養膜細胞塊の数が、PASを前置胎盤と正常胎盤と区別する上で役立つことも判明した。
著者たちは、今後、サンプルサイズを大きくして研究を続ける必要があるが、この方法は、将来的に現行の方法を補完して、妊娠初期の癒着胎盤スペクトラム障害の診断精度を高める可能性があると指摘している。
doi: 10.1038/s41467-021-24627-2
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