保全:サメのエコツーリズムへの参加者がサメの行動に悪影響を及ぼしている可能性
Scientific Reports
2023年9月8日
Conservation: Shark ecotourists may have a negative effect on shark behaviour
サメのエコツーリズム(参加者が料金を支払って野生のサメと一緒に泳ぐことができる)によって、ジンベエザメ(Rhincodon typus)が、捕食者が逃走する際に見せる素早いジグザグな動きに似た、撹乱された行動パターンを示す可能性が高くなるという分析結果を示した論文が、Scientific Reportsに掲載される。この知見は、エコツーリズムがジンベエザメの採餌行動と繁殖につながり得る行動に大きな影響を与える可能性を示唆している。
サメのエコツーリズムは、数百万ドル(数億円)規模の産業になっているが、それによって生じる可能性のある生態学的影響は十分に解明されていない。これまでの研究で、サメのエコツーリズムの一部の拠点で遭遇するサメの種数が減少していることが、サメのエコツーリズム自体と関連している可能性が示されたが、エコツーリズムがサメの行動に及ぼす影響に関する研究で、明確な結論は得られていない。
今回、Joel Gayfordらは、メキシコのラパス湾でジンベエザメを頭上から撮影したビデオ39点を分析し、エコツーリストの行動を模倣した遊泳者がいる時のサメのビデオ(20点)と単独で遊泳するサメのビデオ(19点)を比べて、サメの行動が変化したかどうかを評価した。その結果、遊泳者がそばにいると、撹乱された行動パターンを示すことが多くなり、サメのエネルギー消費量が単独で遊泳する場合よりも多くなった。この行動の変化は、ジンベエザメが餌を探すことを困難にする可能性があり、繁殖成功度に影響を及ぼす可能性さえある。
今回の知見は、サメのエコツーリズム事業者が、参加者に遊泳を許可する前に個々のサメの行動状態を評価することが奨励されるべきであり、エコツーリズム参加者が遊泳する際のサメとの距離の最低限度の規定を見直すべきであることを示唆している。また、Gayfordらは、サメのエコツーリズムの生態学的影響に関する今後の研究で、さまざまなサメ種に対するエコツーリズム産業の影響を正しく評価すべきだとする考えを示している。
doi: 10.1038/s41598-023-39560-1
注目の論文
-
11月21日
生物学:全ヒト細胞アトラスの作成Nature
-
11月21日
健康科学:イカに着想を得た針を使わない薬物送達システムNature
-
11月20日
生態学:リュウキュウアオイが太陽光を共有するNature Communications
-
11月19日
メンタルヘルス:50歳以上の成人のウェルビーイングは、インターネットの利用によって改善される可能性があるNature Human Behaviour
-
11月19日
健康:肥満に関する記憶は細胞に書き込まれるNature
-
11月15日
人工知能:AIが生成した詩は人間が書いた詩よりも好まれるScientific Reports