神経膠芽腫に関連する遺伝子変異
Nature Genetics
2012年1月30日
Mutations associated with glioblastoma
致死性脳腫瘍の1つである小児神経膠芽腫に特異的に関連している遺伝子変異が同定された。これは、Nature(電子版)とNature Genetics(電子版)に掲載される2編の論文によって報告される成果で、これらの論文には、若年者における神経膠芽腫の発生への関与が考えられる経路が示されている。神経膠芽腫に関しては、従来の治療法がどれもうまくいっておらず、この疾患に関連する標的の発見は、新たな治療薬を設計するうえで非常に重要な助けとなる。 成人と小児の神経膠芽腫では、原因となる遺伝的変異に大きなちがいがあると考えられているが、小児神経膠芽腫の特徴の解明は、成人の神経膠芽腫に比べて遅れている。N Jabadoたちは、この遅れを解消するため、48点の小児神経膠芽腫試料についてエキソームの塩基配列を決定した。その結果、染色体中の遺伝物質のリモデリングを引き起こすH3.3-ATRX-DAXXクロマチンリモデリング経路における体細胞変異が小児神経膠芽腫試料の44%で同定された。また、小児神経膠芽腫試料の31%には、ヒストンH3変異体のH3.3をコードするH3F3A遺伝子の変異が見つかった。ヒストンH3は、体内の全細胞のDNAを組織化し、正常な発生過程でDNAコードの発現を調節している。以上の結果を報告する論文は、Nature(電子版)に掲載される。 小児びまん性内在性橋膠腫(DIPG、脳幹のグリア細胞の小児がん)の長期生存率は10%に満たず、脳幹が呼吸などの必須機能を制御しているために、通常は手術不能とされる。S Bakerたちは、7人のDIPG患者のDNAとそれにマッチする生殖系列組織について全ゲノム塩基配列解読を行い、ヒストンH3.1とH3.3をコードする2つの遺伝子の体細胞変異を同定した。また、その後実施された検証のためのコホートでの選択的塩基配列解読では、小児DIPGの50例中39例、非脳幹型の小児神経膠芽腫の36例中13例で上記の変異が同定された。以上の結果を報告する論文は、Nature Genetics(電子版)に掲載される。 これら2つの研究で同定された変異は、神経膠芽腫に特異的で、小児と若年成人に非常に多く見られることが判明している。こうした結果からは、この小児神経膠芽腫患者の集団において、クロマチンの構造に影響を及ぼす変異が病気の原因である可能性が示唆されている。ちなみに、ヒストンH3変異体のH3.3が腫瘍の発生に関与しているとされたのは、今回の研究が初めてだ。
doi: 10.1038/ng.1102
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