キナーゼの新たな事実
Nature Chemical Biology
2013年3月18日
Kinases, take 2
ATP競合性キナーゼ阻害剤の新たな作用機序が、今週発表される。臨床応用でそうした薬剤の有効性を評価する場合には、このメカニズムを考慮する必要があろう。
キナーゼは、正常な過程およびがんのような疾患で、細胞を介するシグナルの伝達に重要な役割を果たす酵素である。それは、細胞間コミュニケーションにきわめて重要なものであるとともに、そのもの自体が酵素であるという事実により、医薬探索研究で狙う標的とされる場合が多い。キナーゼを標的化するための一般的な方法として、ATP競合性阻害剤の作製が挙げられる。ATP競合性阻害剤とは、キナーゼとの結合をめぐってATPと競合し、そのキナーゼの活性を阻害する低分子のことである。
Laurence Pearl、Paul Workmanたちは、ATP競合性阻害剤がキナーゼの活性を阻害する新たなメカニズムを発表している。研究チームは、Cdc37というコシャペロンタンパク質が多くのキナーゼと相互作用し、それをHsp90シャペロン(タンパク質折りたたみ)装置に差し向けることによってその折りたたみを促進し、細胞の分解経路からキナーゼを保護することを明らかにした。意外にも、ベムラフェニブやラパチニブなどのATP競合性阻害剤を用いると、キナーゼはタンパク質折りたたみ装置に近づくことができなくなり、その分解が促進された。このようにATP競合性阻害剤は、キナーゼの酵素活性を阻害することに加え、キナーゼの分解を促進することにより、細胞内の活性キナーゼを減少させることができる。研究チームは、一般的な種類の薬剤が持つこの新しい作用機序に関して、そうした重要な薬剤の臨床有効性を評価するときに考慮する必要がある可能性を示唆している。
doi: 10.1038/nchembio.1212
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