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材料科学:稠密充填された細胞に閉じ込められた繊維ネットワークからの組織様メカニクスの出現

Nature 573, 7772 doi: 10.1038/s41586-019-1516-5

内部細胞骨格や細胞外マトリックスなど、変形に対して形状や機械的抵抗を与える架橋した半屈曲性高分子ネットワークの粘弾性が、組織メカニクスを支配すると推測されている。しかし、軟組織と半屈曲性高分子ゲルの機械的な応答は多くの点で異なる。組織は圧縮で硬化するが伸張では硬化しないのに対し、半屈曲性高分子ネットワークは圧縮で軟化し伸張では硬化する。剪断変形では、半屈曲性高分子ゲルは、ひずみが大きくなるにつれ硬化するが、組織は硬化しない。本論文では、理論モデルと複数の実験系を使って、生体高分子ネットワークやコロイド粒子系の単独使用では再現できない組織メカニクスを模倣するためには、非線形高分子ネットワークの弾性と粒子(細胞)包有物の組み合わせが不可欠であることを示す。組織のレオロジーは、ひずみ硬化する高分子ネットワークとそれらの内部で体積を保つ細胞の間の相互作用から現れる。高分子ネットワーク内部に細胞などの不活性粒子を含有させて、そうした粒子を取り囲む繊維ネットワークの緩和モードを制限することによって、圧縮で軟化し伸張で硬化する高分子ネットワークを、圧縮で硬化するが伸張で硬化しない材料に変えることができる。粒子包有物はまた、剪断変形における硬化も抑制するが、粒子体積分率が低い場合には、高分子ネットワークの弾性にほとんど影響を及ぼさない。しかし、粒子をより稠密に充填すると、この材料は圧縮軟化から圧縮硬化へと切り替わる。こうした複合材料における弾性応答の出現から、疾患時に組織の硬さがどのように変化し、細胞の機能障害につながり得るのかについて示唆が得られる。さらに、今回の知見を使って、生理学的に重要な機械的性質を持つ生体材料を設計できる可能性がある。

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