惑星科学:月を形成した古代の天体衝突は地球のマントルを変質させていた
Nature
約45億年前に発生した古代の原始惑星「テイア」と原始地球の巨大衝突によって、地球のマントル内に独特な領域が形成された可能性のあることが、コンピューターシミュレーションで示された。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。この巨大衝突は月の形成につながったと考えられており、その結果として、地球のマントルの奥深くにテイアの遺物が埋没したという説が提起されている。今回の知見で、地球と月の形成に関する知識が深まる可能性がある。
この巨大衝突のシナリオによれば、テイアが原始地球と衝突し、衝突の残骸から月が形成されたという。しかし、テイアの存在を示す直接的な証拠は、まだ見つかっていない。
今回、Qian Yuanらは、コンピューターシミュレーションを用いて、地球のマントルの深さ約2900キロメートルに地震波速度が異常に遅い2つの大きな領域が存在するという観測結果の説明を試みた。この2つの領域のマントル物質の密度は、周囲のマントルよりも2.0~3.5%高いと示唆されている。Yuanらは、このように密度の高い物質はテイアのマントル物質の埋没された遺物で、月の形成につながった巨大衝突が起こった後に原始地球の深部に保存された可能性があるという見解を示している。また、Yuanらは、テイアの衝突によって遺された密度の高い物質が数十キロメートルにわたっており、マントルの下部領域に沈み込んで蓄積し、地球の核の上部に高密度の塊を形成し、それが現在まで残ったという説を提起している。
Yuanらは、このように密度の高い領域が、月の形成につながった巨大衝突の自然な結果であった可能性があると述べた上で、巨大な衝突は惑星集積の最終段階でよく見られるため、天体の衝突を原因とする同様のマントル不均質性が他の惑星体の内部にも存在する可能性があるという見方を示している。
doi: 10.1038/s41586-023-06589-1
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