Research press release

古生物学:地球史上最大の霊長類はどのように絶滅したのか

Nature

最も大きな霊長類として知られる中国の大型類人猿ギガントピテクス・ブラッキー(Gigantopithecus blacki)が絶滅したのは、環境の変化に適応できずに苦しんだ結果だったことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の知見は、他の類似の霊長類が生き残ったのにギガントピテクス・ブラッキーが生き残れなかった原因を理解する上で欠落していた重要な知識を補っている。

ギガントピテクス・ブラッキーは200万~33万年前に中国に生息していた大型類人猿の一種で、その後絶滅した。身長3メートル、体重200~300キログラムと推定され、地球上に存在した最大の霊長類と考えられている。最も現代に近いギガントピテクス・ブラッキーの複数の化石の分布から、ギガントピテクス・ブラッキーの生息域は、絶滅期に近づくと著しく縮小していたことが示唆されている。この縮小が起こった正確な時期と理由については、確かな結論が得られていない。

今回、Yingqi Zhang、Kira Westawayらは、中国南部の22カ所の洞窟から化石試料を採集し、年代測定を行った。今回の研究では、ギガントピテクス・ブラッキーとそれに最も近い近縁種であるPongo weidenreichiの歯の解析によって、絶滅期における食餌と行動の変化が判定され、花粉と安定同位体の分析によって、生息環境が再構築された。

花粉の分析から、230万年前の生息環境は被覆率の高い密林であり、ギガントピテクス・ブラッキーに適した環境だったことが明らかになった。ギガントピテクス・ブラッキーとP. weidenreichiはいずれも、林冠の閉鎖した森林地帯に生息していたと考えられており、こうした環境では食餌の季節変化が小さく、水の利用可能量が安定していた。しかし絶滅期直前や絶滅期(29万5000~21万5000年前)になると、森林植物群落が変化して、疎林が大部分を占める景観に変化した。疎林への移行は歯の分析結果にも反映されており、ギガントピテクス・ブラッキーの食餌の多様性が低下し、定期的な水の消費量が減少したことが示唆され、この期間中にギガントピテクス・ブラッキーの慢性ストレスが増加したことを示す徴候も見られた。これはP. weidenreichiでは対照的で、P. weidenreichiはこの期間中にストレスがはるかに少なく、変化する条件に対する食餌の好みの適応も優れていた。化石の数はこれらの仮説の正しさを裏付けており、化石記録におけるギガントピテクス・ブラッキーの化石はP. weidenreichiと比較して、30万年前の時点で数が少なく、地理的生息域も小さくなっていた。

著者らは、ギガントピテクス・ブラッキーの絶滅までの正確な年表を示しており、この年表は、ギガントピテクス・ブラッキーが他の霊長類と比べて環境の変化に適応できずに苦しんだことを示唆している。
 

doi: 10.1038/s41586-023-06900-0

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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