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協力と学際性:SDGsを再び活気づけるための取り組み

東京大学とシュプリンガーネイチャーが共同で開催する2025年のシンポジウムでは、ジェンダー公平性ならびにこの課題と持続可能な開発目標(SDGs)の関わりをテーマに取り上げる。これに先立ち、東京大学総長とNature編集長が対談し、どうすればSDGs達成に向けた取り組みを全体的に向上させることができるかについて議論を交わした。

In cooperation with Springer Nature

Klaus Vedfelt/DigitalVision/Getty; Larysa Stepanechko/iStock/Getty

国連の持続可能な開発目標(SDGs)に向けた取り組みの2024年の報告書が発表されたが、その結果は芳しいものではなかった。Nature編集長のマグダレーナ・スキッパー(Magdalena Skipper)は、「目標は達成されそうにありません」と話し、「今年の進捗報告書によると、目標のうち達成されたのは、わずか17%です」と述べている。成績が合格点に達していないこの結果は、単位を落とした学生が留年するどころの話ではなく、はるかに深刻で、地球の未来が脅かされるのである。

この厳しい現状の下、2024年10月9日、東京大学総長の藤井輝夫(ふじい・てるお)氏とスキッパーの対談が行われ、この深刻な状況を是正するために研究コミュニティーは何ができるかについて議論が交わされた。対談の中で、藤井氏とスキッパーは、気候変動、生物多様性、社会的公平性など、SDGsが対象とする複雑な地球規模の課題に取り組むために、学際的なアプローチで多様な科学領域と社会的観点を統合して取り組む必要性について議論を行った。

「学際的な課題、つまり学問領域をまたぐ課題に対し、学術的な視点からどう取り組むことができるかについて、真剣に向き合う必要があります」藤井輝夫氏

学問領域の枠を超えて相互に絡み合った課題に挑む

藤井氏は、SDGsを達成するために大学が貢献する方法はいくつもあると考えている。明白なものは、SDGsのうちの1つに直接関係する研究を行うことだ。しかし、藤井氏は、従来の学問領域の枠を超えて、学術界以外のステークホルダー(利害関係者)とも緊密に協力しながら研究を進めることの重要性を指摘する。「学際的な課題、つまり学問領域をまたぐ課題に対し、学術的な視点からどう取り組むことができるかについて、真剣に向き合う必要があります」と述べている。

スキッパーは、学際的な学術誌であるNatureの編集長として、完全に同意した。「最も複雑な問題の中には複雑な解決策を必要とするものがあり、学際的な学術誌が再び見直されていると感じています。各学問領域の専門家が結集して共通の課題に取り組むことによって、その問題を解決するための最良の機会が得られるのです」。

一方でスキッパーは、学際的な研究の出版には課題もあると話す。「各専門領域にはそれぞれ独自の言語があるため、コミュニケーション上の問題が度々発生します」と彼女は言う。「多くの学問領域にまたがる論文を査読する方法を注意深く考えなければなりません。査読者のコメントを慎重に解釈しなければならないことは言うまでもなく、編集者側としては、編集者の能力、査読過程の入念な監督、査読者の適切な選択も求められます」。

藤井氏は、東京大学が学際的研究を推進するために行っている3つの具体的な方法を示した。1つは、学内で、研究課題を多角的な視点から検討することだという。藤井氏は、興味深い事例として、日本で過去に発生した大地震に関する研究を挙げた。

「大地震や火山活動は地質記録に痕跡を残しますが、その観測データだけではなく、約1000年前までさかのぼることのできる文献史料も東京大学にはあるのです。つまり、自然科学と工学、社会科学と人文科学の観点からの知見という、全く異なる2つの学問領域からの知識を組み合わせることで、例えば、600年前の地震で実際に何が起こったかについて、より正確に把握することができるのです」。

2つ目の方法としては、産業界との協力を進めることが挙げられた。「最近では、企業は自社の企業理念や視点に照らして社会課題を捉えています」と藤井氏。「産業界との包括的な協力は、必然的にさまざまな専門知を持ち寄ることにつながります」。

そして藤井氏は学際的研究を推進する3つ目の柱として、海外の研究機関との共同研究を挙げた。マイクロテクノロジーを例に取ると、この分野は物理学、化学、生物学、ナノテクノロジーなど、実にさまざまな学問領域が関わると、藤井氏は言う。だからこそ、学内だけでなく、世界中の専門家の知識を結集させる必要があるのだ。

持続可能な開発に向けたパートナーシップ:社会の関与

「SDG17『パートナーシップで目標を達成しよう』。これがおそらく最も重要な目標だということに気が付きました。パートナーシップなくして他のどの目標も達成できないからです」マグダレーナ・スキッパー

さらに藤井氏は、大学が大きな違いを生み出すことができる別の方法として、より広範なコミュニティーを研究に巻き込み、その恩恵を共有することを挙げた。

これについても、スキッパーは心から同意し、タンザニアのある部族の腸内マイクロバイオームを調べている微生物学者が地域社会を巻き込んで研究を進めた素晴らしい事例を紹介した。

「ある日、コミュニティーの人々との会合を終えて、その微生物学者が一部の参加者と雑談していたとき、ある参加者から『自分の体の一部を提供するのは心底うんざり』と言われたのです。彼女は愕然としました。それは、住民が彼女の研究に関心を持っていないことを意味するからです。そこで、『あなたたちにとってどのようなことだったら意味がありますか。私が持っているツールを、あなたたちならどのように使いますか』と尋ねました。すると、そのコミュニティーの人たちは何よりも母子の健康のことで頭がいっぱいであることが判明したのです。そこで、彼女は自分の研究を完全に方向転換して、今では、マイクロバイオームのデータとツールを使って、母子の健康状態を改善する研究を行っています。これこそが真の協力関係です。彼女は、そのコミュニティーを助け、コミュニティーの人々と一緒に、そのコミュニティーが本当に関心を持っていることを行っているからです」。

こうした課題に取り組むために力を合わせて協力することの必要性が、実はSDGsに盛り込まれていると、スキッパーは指摘する。

「SDGsに初めて目を通したとき、SDG17の『パートナーシップで目標を達成しよう』に少し戸惑いました」と彼女は振り返る。「他の目標はいずれも具体的にテーマを絞り込んでいるのに、この目標だけちょっと違うというのが第一印象でした。しかし、考えていくうちに、これがおそらく最も重要な目標だということに気が付きました。パートナーシップなくして他のどの目標も達成できないからです」。

つまり、SDGsに関する全体的な成果を改善させるカギは、SDG17を全面的に受け入れ、幅広いレベルで協力することである。これについては、大学にも出版社にも果たすべき重要な役割がある。

ジェンダー公平性とSDGs:東京大学・シュプリンガーネイチャー共同シンポジウム

藤井氏とスキッパーの対談では多様性も話題に上り、特に、ジェンダー公平性と、研究や研究出版におけるその重要性について議論が交わされた。東京大学とシュプリンガーネイチャーが長年にわたる協力の一環として2025年2月8日に共同で開催するSDGsシンポジウムでは、公平性、持続可能性、福祉、そしてこれらの課題とSDGsがどのように交錯しているかを中心に議論が行われる予定だ。

執筆者:Simon Pleasants
(シュプリンガーネイチャー東京オフィスのシニアエディター)

原文:2024-12-12 | The Source: Collaboration and interdisciplinarity: Pathways to reviving the SDGs

2025年2月8日に開催予定の「SDGsシンポジウム2025:サステナビリティとウェルビーイングのための不平等への取り組み」の詳細と参加登録については、こちらのサイトを参照されたい。

対談者プロフィール

藤井輝夫(ふじい・てるお)

東京大学総長
博士(工学)
専門は応用マイクロ流体システム、海中工学

1993年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、同生産技術研究所や理化学研究所での勤務を経て、2007年東京大学生産技術研究所教授、2015年同所長。2018年東京大学大学執行役・副学長、2019年同理事・副学長(財務、社会連携・産学官協創担当)を務め、2021年より同総長に就任、現在に至る。その他、2005年から2007年まで文部科学省参与、2007年から2014年まで日仏国際共同研究ラボ(LIMMS)の共同ディレクター、2017年から2019年までCBMS(Chemical and Biological Microsystems Society)会長、2021年から2024年まで総合科学技術・イノベーション会議議員(非常勤)。

藤井輝夫

マグダレーナ・スキッパー(Magdalena Skipper)

Nature編集長
Nature Portfolioチーフ・エディトリアル・アドバイザー

Natureの編集長であり、Nature Portfolioのチーフ・エディトリアル・アドバイザー。Nature Reviews Geneticsのチーフ編集長、Natureの遺伝学とゲノム科学分野のシニアエディター、およびNature Communicationsの編集長を務め、多くの編集および出版の経験を積んできた。メンターシップ、研究公正の推進、そして研究における協力と包括性に情熱を注いでいる。研究において十分に評価されていない少数派のグループを促進したいという想いの一環で 2018年に共同創設者として、女性の若手研究者を対象としたNature Research Inspiring Science Awardを立ち上げた。ケンブリッジ大学(英国)で遺伝学の博士号を取得。

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