【生態】微生物群集が撹乱されるとサンゴの死滅が促進される
Nature Communications
2016年6月8日
サンゴを食べて生きる微生物群集が環境ストレス要因によって撹乱されることがサンゴの死滅の一因であることを説明した論文が、今週掲載される。今回の研究では、乱獲と栄養素汚染が高い海面水温と相互作用して、その結果としてサンゴを食べて生きる病原性細菌の集団が大きくなり、サンゴの病気が増えたことが明らかになった。
サンゴ礁は、世界中で減少を続けており、海洋温暖化と栄養素汚染、サンゴ礁への土砂流入、乱獲が原因となっている。サンゴとサンゴに生息する微生物は、これらのストレス要因に対する感受性が高いことが知られているが、こうした要因の相互作用がサンゴの減少にどのような影響を及ぼしているのかは十分に解明されていない。
今回、Rebecca Vega Thurberたちは、さまざまな環境ストレス要因がサンゴの健康状態と微生物群集に及ぼす影響を解明するために、大西洋とメキシコ湾の間に位置するフロリダキーズ(米国)のサンゴ礁の実験区で魚類の存在と栄養素汚染(窒素とリンの濃度)を独立して操作する研究を3年間にわたって実施した。その結果分かったのは、これらのストレス要因のそれぞれによって微生物群集が不安定化し、死滅するサンゴが増え、こうした影響が海面水温の上昇によって増幅されたことだ。さらに栄養素を増量すると、藻類の被度が上昇し、日和見感染細菌による捕食が促進されて、サンゴは通常おとなしいブダイ類に食いつかれて死滅した。
今回の研究で得られた新知見は、サンゴ礁の回復力を制御する要因に関する手掛かりとなり、サンゴ礁内での種間相互作用の変化が気候変動と組み合わさると生態学的群集が微生物レベルまで根本的に再編成されることを明らかにしている。
doi:10.1038/ncomms11833
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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