自閉症の成人は周辺環境の変動性を過大評価する傾向がある
Nature Neuroscience
2017年8月1日
自閉症スペクトラム障害(ASD)の成人は、その環境内で予想外の事象に直面した時に示す驚きの程度がASDでない成人より小さく、その驚きの小ささの程度からASDの症状の重症度を予測できることが明らかになった。この研究では、ASDの成人が環境の変動性を過大評価し、特定の変化が生じる可能性を過小評価する傾向があるために予想外の事象に直面してもそれほど驚かないことが示唆されている。この研究結果について報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。
ASDの診断基準の中に「同じであることへのこだわり」と「変化への不寛容」という項目があるが、ASDの患者が、その環境に生じた変化をどのように表現し、応答するのかという点に取り組んだ研究は非常に少ない。例えば、キーボード上のキーを押すと、カチカチという音ではなく、自動車のクラクションの音が聞こえた時に人間はどれほど驚くだろうか。通常はカチカチという音が予想されるが、いたずら好きで科学技術に精通した十代の姪がちょうど遊びに来ていたという状況があれば、環境の変動性が高くなっているため、そうした予想が修正される可能性があり、驚きも小さくなる可能性がある。これに対して、環境の変動性を過大評価していると事前の予想(カチカチという音)の形成が損なわれて、自動車のクラクションの音に対する驚きが小さくなる可能性がある。
今回の研究でRebecca Lawsonたちの研究グループは、ASDの成人(24名)と年齢と知能指数が一致する神経学的機能が正常な成人(25名)の双方に学習課題を行わせ、その成績データにコンピューターモデリングを適用して、それぞれの被験者の学習過程の特徴を明らかにした。ここから分かったのは、自閉症の成人が知覚環境の変動性を過大評価する傾向があり、そのために適応的な驚きをもたらす安定した予想を形成するための学習が損なわれていることだった。つまり、キーボード上のキーを押した後、自動車のクラクションの音が聞こえても自閉症の成人は驚かない可能性があるのだ。Lawsonたちは、今回の研究で、ASDの患者がその環境の変化に応答する過程における行動的機構、計算的機構、生理的機構に関する新たな手掛かりが得られたと結論づけている。
doi:10.1038/nn.4615
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