【環境科学】沿岸部の水防における湿地帯の経済効果
Scientific Reports
2017年9月1日
ハリケーン「サンディー」に襲われた米国の洪水損害額が6億2500万ドル(約688億円)少なく済み、そのことに沿岸湿地帯の水防効果が寄与していたという評価が明らかになった。
ストームによる洪水損害額の増加と発生頻度の上昇という傾向は続いており、これに対しては、物理的に健全で、対費用効果の優れた戦略によってリスクを低減する必要が生じている。湿地帯、礁などの自然生態系がそうした解決策となる可能性があるが、洪水による物的損害を減らすうえで沿岸湿地帯がどのような価値を有するのかという点に関して大規模な評価が行われることはなかった。
今回、Siddharth Narayan、Michael Beckたちの研究グループは、保険部門において作成された高分解能リスクモデルを用いて、2012年のハリケーン「サンディー」襲来時の洪水による直接損害が約6億2500万ドル(約688億円)少なく済んだことに米国東海岸12州の湿地帯が役立ったという推定結果を明らかにした。次に、Narayanたちは、合成ストームのデータベースを用いて、ニュージャージー州オーシャン郡にある塩沼のリスク低減効果を評価した。それによれば、塩沼が存在することで洪水による年間損失額が平均16%少なくなり、沼の奥に位置する地域の財産に対する最大年間リスクが全ての標高で低下したことが明らかになった。Narayanたちは、塩沼のリスク低減効果が認められたことに基づき、今回の研究結果が湿地帯の再建を後押しする可能性があるという見方を示している。
doi:10.1038/s41598-017-09269-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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