【持続可能性】貧困の撲滅と気候変動の緩和は両立するか
Nature Communications
2017年10月25日
極度の貧困を撲滅する活動は、気候目標の達成に向けた試みの妨げにならないという見解を示した論文が、今週掲載される。しかし、貧困層の所得レベルを「かなりささやかな生活(1日当たりの収入がPPP2.97米ドル以上)」という次の段階に引き上げようとすれば、気温上昇を摂氏2度未満に抑えるために追加的な気候変動緩和策が必要になるという推定結果も今回の研究では示されている。
極度の貧困とは、人間の基本的ニーズ(食料、水、医療、エネルギーを入手できること)が満たされない状態であり、これを2030年までに終わらせることが、国連の持続可能な開発目標の最初の目標となっている。ところが、全ての人々に資源の入手可能性を保証しようとすると、炭素排出量が増え、パリ協定の気候目標(産業革命前からの気温上昇を摂氏2度までに抑えること)の達成が危うくなると予想されている。
今回、Klaus Hubacekたちの研究グループは、貧困の撲滅が達成されることで気候目標の達成にどのような影響が生じる可能性があるのかを調べた。この研究では、極度の貧困(人間の基本的ニーズが充足されず、1日当たりの収入がPPP1.90米ドル未満の状態)を撲滅することで、気候目標の達成は脅かされないことが明らかになった。その一方で、貧困層の所得レベルを次の段階(先進工業国の基準では「かなりささやかな生活」である1日当たりの収入がPPP2.97米ドル以上)に引き上げようとすると、気候変動緩和活動を27%強化する必要があるとする考えが示されている。しかし、現在の技術で炭素排出量の増加に対処することはできない。Hubacekたちは、収入が最も多い層の人々が炭素排出量に対する責任の割合が最も大きく、これ以上の技術革新が起こらないと仮定した上で、今後の気候変動をめぐる議論では低炭素社会と持続可能な世界に移行するための生活様式と行動の変化に取り組むべきだと結論付けている。
doi:10.1038/s41467-017-00919-4
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