Research Press Release

発生生物学:塩基編集によりヒト胚発生に不可欠な因子が明らかに

Nature

2026年6月26日

ヒト胚における発生調節因子の不可欠な役割を明らかにした論文が、Nature に掲載される。NANOGと呼ばれる転写因子の機能的役割が、塩基編集(base editing)を用いてヒト胚性幹細胞およびヒト胚において解明され、ヒトの発生に関する理解を深めるうえで、この技術が重要であることが示された。

マウスを用いた研究から、初期発生を調節する転写因子(遺伝子発現を調節するタンパク質)に関する知見が得られてきたものの、倫理的、技術的、および生物学的な制約により、これらの知見をヒト胚に当てはめることは困難であった。これまでのマウス研究では、NANOGが胚発生において重要な役割を果たし、マウス胚の胚盤葉上層(epiblast)の形成に寄与し、多能性を制御していることが示されていた。しかし、ヒト胚におけるこの転写因子の役割については、これまで検証されていなかった。ゲノム編集技術は、胚における発生上重要な遺伝子を解明するために利用できるものの、ヌクレアーゼを用いたゲノム編集(たとえばCRISPR/Cas9)などの一部の方法では、望ましくないオフターゲットのDNA変化やゲノム再編成を引き起こすことが示されている。

従来の課題を克服するため、Kathy Niakanら(ケンブリッジ大学〔英国〕)は、特定の転写因子の役割を解明するために、「塩基編集」と呼ばれるCRISPR/Cas9技術の改良版を用いた。ヌクレアーゼを用いたゲノム編集では、DNAを二本鎖で切断し、特定の配列を挿入または除去することで、特定の過程における遺伝子などの役割を調べることが可能になる。一方、塩基編集では、DNAの一本鎖のみを切断しながら、ヌクレオチド塩基(DNAの構成要素)の変換を行うことができる。Niakanらは、アデニン塩基編集を用いて、ヒト胚性幹細胞およびヒト胚(14日を超えて発生させていない)においてNANOGの機能を阻害した。NANOG機能の喪失により、多能性を持つ胚盤葉上層細胞が、体内のあらゆる細胞を生み出す能力を持つ細胞へと変化することが妨げられ、これらの細胞は胚体外の卵黄嚢細胞や胎盤細胞になる方向へと向かうようになる。著者らは、これらの結果はマウス研究で観察されたものとは異なり、ヒトの発生を直接調べることの重要性を強調していると指摘している。

著者らは、アデニン塩基編集が、初期ヒト胚における遺伝的シグネチャーの機能的役割を研究するための正確かつ効果的な手法であり、ヌクレアーゼを用いたゲノム編集の限界の一部を克服できる可能性があると結論づけている。また、ヒト胚におけるゲノム編集の臨床応用については、実施に先立ち、厳格な倫理的検討と監督、ならびに広範な社会的議論と支持が必要であると注意を促している。

  • Article
  • Published: 25 June 2026

Bower, O.J., R. Orsi, A.E., McMahon, R. et al. Base editing reveals an essential role for NANOG in human embryogenesis. Nature (2026). https://doi.org/10.1038/s41586-026-10792-1

 

doi:10.1038/s41586-026-10792-1

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