Research Press Release

神経科学:脳の解読技術を用いて音声の音量を選択的に高める

Nature Neuroscience

2026年5月12日

聞き手が注意を向けている音声を脳信号からリアルタイムに特定し、複数の話者の中からその声だけを選択的に増幅するシステムを報告する論文が、Nature Neuroscience にオープンアクセスで掲載される。この脳–コンピューターインターフェース(BCI:brain–computer interface)は、騒がしい環境における将来の補聴器機能の向上につながる可能性がある。

複数の話者や背景騒音が存在するにぎやかな社交の場において、特定の人物の話し言葉を聞き分けることは多くの人にとって容易ではなく、特に難聴者にとっては大きな課題である。従来の補聴器は、通常、周囲のすべての音を均一に増幅するため、聞き手が意図する話者に焦点を合わせることが難しい。こうした課題に対し、「聴覚的注意デコーディング(auditory attention decoding)」と呼ばれる脳–コンピューターインターフェースの手法では、聞き手の神経信号から注意が向けられている話者を推定する試みが行われてきた。しかし、そのような解読がリアルタイムで聴取の質や理解力を向上させられるかどうかは、依然として不透明なままであった。

Nima Mesgaraniら(コロンビア大学〔米国〕)は、神経活動を直接的に選択的な音声増幅に結びつける閉ループ型の脳–コンピューターインターフェースを開発した。著者らは、てんかんの臨床モニタリングを受けている4名の参加者に対し、頭蓋内電極を埋め込んで聴覚野の高解像度脳活動を測定した。参加者は、同時に提示される2つの競合する会話を聴取し、その際の脳活動データを用いて、注意を向けている会話の時間的パターンが再構築された。デコーディングモデルは、この再構築されたパターンを競合する音声ストリームと比較し、音量を動的に調整した。複数の実験をつうじて、このシステムは72.0%から90.3%の確率で聴覚的注意を正確にデコードし、対象とする音声の相対的な音量を数デシベル調整した。システムが作動している間、参加者の音声理解度が向上し、聴取時の負担が軽減されたほか、脳によって制御される音声増幅を好むことが報告された。

一方で著者らは、本研究が少数の参加者を対象とした侵襲的な頭蓋内記録に依存しており、現時点では広範な実用化には適さない点を指摘している。今後の研究では、より拡張性の高い非侵襲的な記録手法の検討や、日常的な聴取環境における有効性の評価が求められる。

Choudhari, V., Nentwich, M., Johnson, S. et al. Real-time brain-controlled selective hearing enhances speech perception in multi-talker environments. Nat Neurosci (2026). https://doi.org/10.1038/s41593-026-02281-5
 

doi:10.1038/s41593-026-02281-5

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

「注目のハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度