生態学:「人間の盾」がジャッカルのヨーロッパ全土への拡散を助長している
Nature Ecology & Evolution
2026年5月26日
人間の活動がハイイロオオカミ(grey wolves)による抑制効果を弱めることで、ヨーロッパ全土におけるキンイロジャッカル(golden jackals)の生息域拡大を助長している可能性があることを報告する論文が、Nature Ecology & Evolution に掲載される。著者らは、この人間を介した相互作用により、ジャッカルが大陸の最大75%を占めるようになる可能性があり、これは現在の生息域のほぼ6倍に相当すると指摘している。
これまでの研究では、気候の温暖化、土地被覆の変化、および捕食者の不在など、ヨーロッパにおけるジャッカルの拡散には複数の要因が示唆されてきた。ジャッカルと競合し、場合によっては捕食することもあるオオカミは、かつて大陸全域に広く生息していたが、何世紀にもわたる迫害と人口の増加により、生息域はかつてのごく一部にまで縮小している。北米で行われた研究では、人間によるオオカミの排除が、キンイロジャッカルとサイズや生態が類似するコヨーテにとって有益であることが示されているが、同様の動態がヨーロッパにおいて生態学的に重要であるかどうかは、これまで明らかではなかった。
Nathan Rancら(ハーバード大学〔米国〕)は、2001年から2017年にかけてヨーロッパ13か国の8991か所で収集されたジャッカルの遠吠え調査データを分析した。その結果、積雪期間の短さ、中程度の森林被覆、および水域への近接性が、いずれもジャッカルの生息と関連していることが判明した。オオカミの存在がジャッカルの生息に対する最も強い制約要因であることがわかった。すなわち、ジャッカルはオオカミがいない場所で最も生息しやすく、安定したオオカミ群れがいる中心域では最も生息しにくい。しかし、人間の居住地への近接性は、この抑制効果を弱めるようであり、これは「人間の盾(human shield)」という概念を裏づけるものである。この概念では、捕食者がその地域を避けるため、動物が人間の近くにとどまるという。ジャッカルは、オオカミが生息しない地域では開発された地域を避ける傾向があるものの、オオカミが生息する地域では人間の近くに出現する可能性が高い。ジャッカルは、現在、おもに南東および中央ヨーロッパに生息している(ただし、西はスペイン、北は北極圏まで個体が確認されている)が、著者らは、大陸の総面積の75%がこの種にとって環境的に適していることを明らかにした。
著者らは、欧州で進行中のオオカミの個体数回復がジャッカルにとって適した生息域を縮小させる可能性があるものの、持続的な「人間の盾」効果は、気候変動や土地利用の変化と相まって、今後もジャッカルの生息域拡大を促進し続ける可能性が高いと指摘している。
- Article
- Published: 25 May 2026
Ranc, N., Wilmers, C.C., Maiorano, L. et al. Human shielding from wolves facilitates jackal expansion across Europe. Nat Ecol Evol (2026). https://doi.org/10.1038/s41559-026-03060-y
doi:10.1038/s41559-026-03060-y
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