創薬:COVID-19の治療を目指したドラッグ・リパーパシングの可能性
Nature
2020年5月1日
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に関与する300種以上のタンパク質相互作用(そのうちの約5分の1/が既存薬の標的になっている)を特定した分析結果を報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究では、こうしたタンパク質に作用する薬物の一部に抗ウイルス作用のあることが、実験室での試験によって明らかになった。この新知見は、既承認薬や他の疾患の治療のために試験が行われている薬剤を転用すること(リパーパシング)により、COVID-19の治療法を開発できる可能性のあることを示唆している。
SARS-CoV-2感染に対するワクチンや治療法を開発する研究では、SARS-CoV-2がどのようにしてヒト宿主を乗っ取るかについての理解が進んでいないことが障害になっている。今回、Nevan Kroganたちの研究チームは、この問題に取り組むため、29種のSARS-CoV-2タンパク質のうちの26種がヒトタンパク質とどのように相互作用するかを調べた。Kroganたちは、332種の注目すべき相互作用を突き止め、66種のヒトタンパク質が69種の既知化合物(29種のFDA承認薬と臨床試験まは前臨床試験を実施中の40種の化合物)の標的になっていることを明らかにした。さらに、Kroganたちは、これらの化合物の一部について試験を行い、実験室での試験で抗ウイルス活性を示す2つのグループの化合物を特定した。ただし、SARS-CoV-2患者を対象とした試験は実施されていない。これらの抗ウイルス薬は、タンパク質翻訳(ウイルス複製の重要な過程)を阻害し、あるいは特定の受容体(Sigma1とSigma2)を標的として、ウイルスの機能を破壊した。
ヒトのSARS-CoV-2感染の機構に関する手掛かりと薬剤標的候補の特定は、COVID-19の新たな治療法を導き出すための有益な情報となる可能性があるが、Kroganたちは、SARS-CoV-2感染症の治療に既知の薬剤の使用を検討する際には、望ましくない副作用が生じる可能性があるために注意が必要なことを強調している。例えば、Sigma1受容体やSigma2受容体と相互作用する薬剤には、プロウイルス活性があると考えられている。SARS-CoV-2感染関連タンパク質を標的とすることが明らかになった化合物の研究をさらに進める必要がある。
doi:10.1038/s41586-020-2286-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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