ゲノミクス:コウモリの優れた適応を解明する手掛かりとなる6種類のゲノム
Nature
2020年7月23日
コウモリ種6種の高品質な参照ゲノムについて報告する論文が、今週、Natureに掲載される。この知見は、長寿、反響定位、感覚性知覚、ウイルス感染に対する極めて優れた免疫といったコウモリの極端な適応の遺伝的基盤を解明するための新たな手掛かりになる。
今回、Emma Teeling、Sonja Vernesたちの研究チームは、国際的なゲノムコンソーシアム「Bat1K」の一環として、6種類のコウモリ[キクガシラコウモリ(Rhinolophus ferrumequinum)、エジプトルーセットオオコウモリ(Rousettus aegyptiacus)、ウスイロオオヘラコウモリ(Phyllostomus discolor)、オオホオヒゲコウモリ(Myotis myotis)、クールアブラコウモリ(Pipistrellus kuhlii)、パラスオヒキコウモリ(Molossus molossus)]のゲノム塩基配列を報告している。このゲノム解析は、有胎盤哺乳類の陰嚢野獣類のコウモリの進化的起源を特定する上で役立つ。著者たちは、聴覚に関与する遺伝子がコウモリの祖先系統において選択されたことを明らかにし、これによって、喉頭反響定位が陰嚢野獣類のコウモリの祖先の形質であったことが示唆された。また、著者たちは、免疫に関与する遺伝子の選択と喪失、抗ウイルス性遺伝子APOBEC 3の拡大の証拠を見いだし、コウモリの極めて優れた免疫に寄与すると考えられる分子機構を明らかにした。さらに、さまざまなウイルスのゲノム組込みがあったことが判明し、過去のウイルス感染に対するコウモリの耐性が明らかになっている。
今回の知見は、コウモリの適応のゲノム的基盤について解明を進めるための内容豊富な情報源であり、ヒトの健康と疾患にも関係している可能性がある。例えば、こうしたコウモリのゲノムは、コロナウイルスの感染に対して耐性が生じる過程の研究に役立つ可能性があり、将来的には、COVID-19のような疾患に対するヒトの生存率を向上させる方法の開発にもつながるかもしれない。
doi:10.1038/s41586-020-2486-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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