感染症:HIVの複製を制御できているまれな感染者における複製制御プロセス
Nature
2020年8月27日
HIV-1感染者の一部は、抗レトロウイルス療法(ART)を受けなくてもHIV-1の複製を制御できており、こうした感染者の多くでは、HIV-1がヒトゲノムの特定の領域に組み込まれていて、ウイルス転写が抑制されていることが明らかになった。この知見を報告する論文が、今週、Nature に掲載される。
HIV-1感染者の中には、全体の0.5%未満にすぎないものの、薬物治療を受けなくてもHIV-1の制御を維持できる人がいる。これらの人々は複製可能なHIV-1のリザーバーを有することが確認されているが、こうしたHIV-1の制御がどのように行われているかは不明だ。
今回、Xu Yuたちの研究チームは、薬剤治療を受けずにHIV-1の制御を維持できている感染者(エリートコントローラー)64人とARTを受けている感染者41人の細胞から抽出したプロウイルス(宿主細胞のDNAに組み込まれたウイルスゲノム)を比較した。その結果、エリートコントローラーから採取した細胞に含まれていたプロウイルスの数の中央値は、ARTを受けている感染者から採取した細胞のプロウイルスの数の中央値よりも有意に少なかったが、エリートコントローラーから採取した細胞のプロウイルス塩基配列の方が、遺伝的に無傷の部分が大きかった。Yuたちは、染色体組み込み部位解析を行って、エリートコントローラーではHIV-1がDNAのタンパク質非コード領域または19番染色体上のKRAB-ZNF遺伝子に組み込まれていることを観察した。これらの領域は、ヘテロクロマチンと呼ばれる密に詰め込まれたDNAで構成され、一般的にHIV-1が組み込まれにくい。また、組み込み部位は、宿主の転写開始部位から離れている傾向があった。Yuたちは、このようなウイルスの深い休眠状態、つまり潜伏が、薬剤なしにHIV-1の制御を維持できることに関与しているという見解を示す一方で、この過程は完全に永続的または不可逆的なものではない点も指摘している。
Yuたちは、1人の感染者について、15億個以上の末梢血単核細胞を分析したにもかかわらず、無傷のプロウイルス塩基配列を検出できなかった。Yuたちは、この感染者が、これまで造血骨髄移植後にのみ観察されていた効果であるHIVの完全治癒を達成した可能性があるという見解を用心深く示している。
doi:10.1038/s41586-020-2651-8
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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