小児科学:抗てんかん薬への子宮内曝露と神経発達障害のリスク
Scientific Reports
2020年10月23日
妊娠中に抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウムを服用していた母親から生まれた子どもは、乳幼児期に神経発達障害を発症するリスクが4~5倍に達する可能性があることを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。子宮内でバルプロ酸ナトリウムに曝露された991人のフランスの乳幼児のうち満5歳になるまでに神経発達障害と診断されたのは50人(5%)だったのに対し、抗てんかん薬への子宮内曝露がなかった171万441人の乳幼児のうち神経発達障害と診断されたのは1万5270人(0.89%)だった。
今回、Rosemary Dray-Spiraたちの研究チームは、2011年1月~2014年12月にフランスで生まれた乳幼児172万1990名の匿名化医療記録を用いて、乳幼児の神経発達障害の発症率を調べた。その結果、1万1549人の母親が妊娠中にいくつかの一般的な抗てんかん薬のいずれかで治療を受け、2016年末までに1万5458人(0.9%)の乳幼児が神経発達障害を発症したことが確認された。全体的傾向として、出生前にバルプロ酸ナトリウムに曝露された乳幼児が神経発達障害を発症するリスクは、バルプロ酸ナトリウムに曝露されていない乳幼児より高く、例えば、知的障害を発症する確率は5.1倍、言語症や学習症、運動症を発症する確率は4.7倍、自閉症スペクトラム障害を発症する確率は4.6倍だった。バルプロ酸ナトリウムへの子宮内曝露が妊娠第1三半期に限られていた乳幼児は、発症リスクが高くならなかった。また、乳幼児の発症リスクは、母親の服用量が少ない場合の方が、多い場合よりも低かった。
抗てんかん薬であるラモトリギン、カルバマゼピン、プレガバリンによる治療を受けた母親から生まれた子どもは、神経発達障害のリスクが、それぞれ1.6倍、1.9倍、1.5倍高かった。抗てんかん薬のクロナゼパム、ガバペンチン、レベチラセタム、オクスカルバゼピンを投与された母親から生まれた子どもは、神経発達障害のリスクの上昇は認められなかった。
以上の知見は、バルプロ酸ナトリウムへの子宮内曝露、特に妊娠第1三半期を超えた子宮内曝露が、乳幼児期の神経発達障害の発症リスク上昇に関連している可能性を示している。一方でDray-Spiraたちは、他の抗てんかん薬への曝露に伴う神経発達障害のリスクはかなり低いと考えている。
doi:10.1038/s41598-020-74409-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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