ウイルス学:抗寄生虫薬がSARS-CoV-2によって誘導される肺細胞の融合を防ぐかもしれない
Nature
2021年4月7日
条虫症の治療に一般的に使用される薬剤が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の肺の中で起こる非定型な融合細胞の形成を阻止するために役立つ可能性があることが実験室実験によって明らかになった。この研究結果を報告する論文が、Nature に掲載される。/p>
ニクロサミドは、もともと1950年代にカタツムリに用いる軟体動物駆除剤として開発されたが、その後、ヒトの条虫症の治療薬としての使用が承認され、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含むさまざまなウイルスに対して活性を示すことがすでに知られている。
今回、Mauro Giaccaたちは、2020年3~5月にCOVID-19で死亡した患者(41人)の肺から採取した検体を調べたところ、多くの肺組織の中に融合した肺上皮細胞が含まれていることを見いだした。この融合細胞は、合胞体と呼ばれ、20個以上の核が含まれていることもあった。Giaccaたちは、このように細胞が融合する過程がSARS-CoV-2のスパイクタンパク質によって媒介されることも見いだした。スパイクタンパク質は、カルシウム振動とTMEM16Fタンパク質の活性化を引き起こす。
Giaccaたちは、以上の観察結果を踏まえて、臨床で承認されている薬剤(3000種類以上)のスクリーニングを実施し、スパイクタンパク質が引き起こす細胞融合を阻害する分子を探索した。その結果、83種類の薬剤が見つかり、ウイルスの複製と細胞の損傷に対する防御効果も有する43種類の分子に絞ってさらに実験が行われた。その中で最も有効性の高い分子の1つが、抗寄生虫薬のニクロサミドだった。実験室での実験で、ニクロサミドは、ウイルスの複製を阻害し、スパイクタンパク質を発現する細胞のカルシウム振動を鈍化させ、TMEM16Fの活性を抑制し、スパイクタンパク質が誘導する合胞体の形成を防ぐことが明らかになった。Giaccaたちは、TMEM16ファミリーのタンパク質を阻害することが知られている他の薬剤も実験室実験で良好な成績を示しており、COVID-19治療薬としてのさらなる研究が必要なのかもしれないと指摘している。
doi:10.1038/s41586-021-03491-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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