ウイルス学:一部の抗体の中和作用を回避できるデルタ変異株
Nature
2021年7月8日
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のデルタ変異株は、実験室で作製されたモノクローナル抗体の一部に対して抵抗性を示し、以前にSARS-CoV-2に感染した被験者またはファイザー社/バイオンテック社製ワクチンもしくはアストラゼネカ社製ワクチンを1回接種した被験者の血清に含まれる抗体によって阻害されにくいことが明らかになった。こうした新知見を報告する論文が、Nature に掲載される。ただし、デルタ変異株に対する中和反応は、それぞれのワクチンを2回接種した後に生じることが、この論文で報告されている。
今回、Olivier Schwartzたちの研究グループは、モノクローナル抗体と以前にSARS-CoV-2に感染したことのある被験者(103人)と最近ワクチンを接種した被験者(59人)の血清中の抗体について、デルタ変異株に対する反応性をアルファ変異株とベータ変異株と比較しつつ調べ、SARS-CoV-2の初期株に類似した参照用変異株に対する反応性も調べた。その結果、一部のモノクローナル抗体(新型コロナウイルスの治療薬「バムラニビマブ」を含む)がデルタ変異株のスパイクタンパク質に結合できず、そのためにウイルスを中和できないことが判明した。この知見は、デルタ変異株が、そのスパイクタンパク質の特定部分を標的とする抗体を回避できることを示唆している。
また、Schwartzたちは、SARS-CoV-2に感染してから12か月以内に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した被験者から採取した血清に対するデルタ変異株の感受性がアルファ株の4分の1だったことを明らかにした。ファイザー社/バイオンテック社製ワクチンまたはアストラゼネカ社製ワクチンの単回投与では、ベータ変異株とデルタ変異株に対する有効性が低いか全く効果がなく、単回投与でデルタ変異株の中和が確認された被験者は約10%にすぎなかった。これに対して、それぞれのワクチンの2回目の接種をした被験者の95%で中和反応が生じたが、デルタ変異株に対する効力は、アルファ変異株に対する場合の3分の1〜5分の1だった。さらにSchwartzたちは、以前にSARS-CoV-2に感染した被験者にワクチンを接種すると、免疫が増強して、ベータ変異株の中和しきい値を超えることを発見した。
doi:10.1038/s41586-021-03777-9
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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