健康:マウスとヒト細胞における心臓の異常の改善に、鎮咳薬が役立つ
Nature Cardiovascular Research
2022年2月18日
異なる3つの遺伝子の変異が原因で生じ、命に関わる恐れのある先天性不整脈の治療に、鎮咳薬デキストロメトルファンが役立つことが、マウスモデルとヒト細胞の研究で明らかになった。この知見について報告する論文が、Nature Cardiovascular Research に掲載される。ただし、他の臓器や組織への影響を調べ、今後の臨床応用に向けて治療法を最適化するには、さらなる研究が必要であろう。
心臓の拍動は、心筋細胞と呼ばれる心臓の特殊な筋肉細胞が働くことによる。この拍動過程は、心筋細胞の膜を通って電荷を帯びたイオンが流れる(活動電位と呼ばれる)ことによって制御されており、この流れによって細胞が興奮し、収縮する。イオンチャネルをコードする遺伝子の変異は、心臓のある種の不規則な拍動(QT延長症候群と呼ばれる特殊な不整脈)につながる可能性がある。その一例がティモシー症候群という治療法のない珍しい病気で、幼少期に死に至る。ティモシー症候群の原因は、カルシウムイオン輸送の役割を担うCACNA1C遺伝子の変異である。
今回、コロンビア大学の矢澤真幸(やざわ・まさゆき)たちは、ティモシー症候群のマウスやティモシー症候群患者由来のヒト心筋細胞に、米食品医薬品局の認可を受けた鎮咳薬デキストロメトルファンを投与すると、活動電位が正常化することを明らかにした。より一般的に見られるQT延長症候群(LQTS1とLQTS2)のヒト細胞モデルにおいても、同様の効果が認められた。LQTS1とLQTS2は、それぞれカリウムイオンチャネルKCNQ1とKCNH2をコードする遺伝子の変異が原因で起こる。デキストロメトルファンは、カルシウムイオンの流れを抑え、カリウムイオンの流れを増やし、SIGMAR1受容体を活性化することによって、活動電位を回復させる。
矢澤たちは、一部の患者に嘔吐を引き起こす可能性があるなど、デキストロメトルファンの臨床応用の制約となる恐れのある注意事項をいくつか指摘している。さらに、乳児や小児(ティモシー症候群の主たる患者層)でのデキストロメトルファンの薬理学的特性は、完全には解明されていない。とはいえ、デキストロメトルファンは、ティモシー症候群の治療法開発に向けた重要な足掛かりになるだろう。
doi:10.1038/s44161-021-00016-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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