土木工学:スマホを使って橋梁の健全性を監視する
Communications Engineering
2022年11月4日
米国サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジのような橋を渡る自動車の運転者や乗客のスマートフォンを使ったクラウドソーシングで集めたデータが、橋梁の構造健全性モニタリングに役立つ可能性があることを報告する論文が、Communications Engineeringに掲載される。この知見は、クラウドソーシングによる監視が、世界中の交通インフラの構造健全性を監視するための低コストで便利な方法となり、橋梁の寿命を最大30%延ばせるかもしれないことを示唆している。
橋梁、ビルやその他の構造物のレジリエンスと寿命を向上させるために、インフラの監視が世界的に必要とされている。通常、橋梁の構造健全性については、技術者が、現場で目視による評価を行っているが、この方法は、長い時間を必要とし、たまにしか実施されないことが多い。また、橋梁に組み込まれた固定センサーを使用して測定されることもあるが、多大な費用を要する。過去には、橋梁の振動周波数の測定を行って、橋梁の損傷や劣化を特定していたが、この方法の正当性を裏付けるデータは少なかった。
今回の研究では、スパンの長い吊り橋であるゴールデン・ゲート・ブリッジを自動車で日々通行するUberアプリ利用者の携帯電話の加速度計(振動を検知する装置)の匿名化データをクラウドソーシングによって収集し、振動周波数の記録を作成した。そして、Matarazzoたちは、それぞれの携帯電話から発信された100件未満のデータセットを用いて、データ提供者のそれぞれの橋の通行において橋梁の振動周波数を3%以内の精度で推定できたことを明らかにした。この研究では、さらに、この方法を用いて、イタリアで数多く見られるスパンの短い高速道路橋を監視できることが実証された。Matarazzoたちは、クラウドソーシングによるモニタリングのデータを使えば、古い橋梁の寿命を約2年(15%)延長でき、新たに建設された橋梁の寿命を約15年(30%)延長できるかもしれないという見解を示している。
この方法で構造劣化を直接特定することはできないが、今回の知見は、データ提供者の自動車の車種、走行速度や携帯電話のモデルにかかわらず、クラウドソーシングによって収集したデータを使用して、インフラの監視を低コストで継続的に実施できる可能性を浮き彫りにしている。また、Matarazzoたちは、クラウドソーシングによって収集したデータを非常に大量に利用するようになれば、人工知能と計算論的学習の進歩を活用することで、この方法の感度と監視能力がさらに向上するかもしれないと述べている。
doi:10.1038/s44172-022-00025-4
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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