社会学:現金給付プログラムは低・中所得国での死亡リスクを低下させる
Nature
2023年6月1日
貧困の削減を目的とした政府主導の現金給付プログラムは、低・中所得国の成人女性と5歳未満の小児の死亡リスクを低下させることが明らかになった。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。
貧困生活は、健康に有害な影響を及ぼし、平均余命の低下とも関連している。貧困を減らす試みとして、100カ国を超える低・中所得国が現金給付プログラム(家族や個人への直接現金給付)を導入している。これらのプログラムには、現金の無条件給付(サハラ以南のアフリカで一般的な制度)の場合と、就学勧奨などの条件が付いた給付の場合がある。これらの現金給付プログラムは、貧困を減らし、教育や栄養の改善などの利益をもたらすことが明らかになっているが、集団レベルの死亡率にどのように影響するかについての証拠は限られている。
こうした文献の欠落に取り組むため、Aaron Richtermanらは、2000~2019年の低・中所得国における大規模な政府主導の現金給付プログラムが死亡率に及ぼす影響を評価した。今回の研究で分析対象になったのは合計37カ国で、サハラ以南のアフリカ29カ国、中南米・カリブ海諸国3カ国、アジア太平洋地域4カ国、北アフリカ1カ国が含まれていた。データセットには、合計432万5484人の成人と286万7940人の小児が含まれ、対象期間中に成人12万6714人と小児16万2488人の死亡が記録された。現金給付プログラムによって、18歳以上の女性の死亡リスクが20%低下し、5歳未満の小児の死亡リスクは8%低下した。死亡リスクに対する効果は、条件付き給付と無条件給付で同程度だった。死亡リスクの低下は、集団において受給対象者の占める割合が大きなプログラムと、給付額の多いプログラムの場合に顕著だった。
Richtermanらは、今回の分析に内在するいくつかの限界を指摘している。データセットにおいて60歳超の成人の占める割合が過小(成人データセットの約1%)であったため、今回の研究結果は、この年齢層には当てはまらない可能性がある。また、今回の研究では、現金給付プログラムの実効性に影響を与えた可能性のあるいくつかの要因(例えば、現金給付プログラムの実施状況)を評価できなかった。しかし、Richtermanらは、今回の知見は、貧困撲滅プログラムを国民の健康状態の改善と死亡率低下に用いることの正当性を裏付ける証拠になると結論付けている。
doi:10.1038/s41586-023-06116-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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