環境:有害化学物質の国際貿易の分析
Nature Sustainability
2023年7月11日
有害化学物資の貿易を減らす規制が実施されているにもかかわらず、2004~2019年に2500万トンを超える有害化学物質が違法に取引されていたことが示唆された。この分析結果について報告する論文が、Nature Sustainabilityに掲載される。この知見は、極めて有害な化学物質の貿易に対処する国際条約であるロッテルダム条約によって規制された化学物質の、6万6000件を超える貿易記録に基づいている。
人工化学物質は、早死、身体障害、疾病、生物多様性の損失、環境の悪化など、ヒトの健康や生態系に対する悪影響の原因となる。2004年に成立したロッテルダム条約は、化学物質の貿易を規制する重要な国際条約である。この条約によれば、ロッテルダム条約の締結国は全て、記載された化学物質それぞれについて、将来の輸入を認めるかどうか決定する必要がある。従って、輸入しないことを選択した国への記載された化学物質の輸出は違法である。
今回Hongyan Zou、Zhanyun Wangらは、国連商品貿易統計データベースから得られた6万6156件の貿易記録を分析することによって、この条約の下で記載された化学物質の2004~2019年の国際貿易を追跡した。分析した46種の化学物質(極めて有害な殺虫剤、工業化学物質、多用途化学物質など)は、2004~2019年にかけて少なくとも6450万トン取引されていた。著者らは、その内の少なくとも2万5324件(2570万トンに相当)の貿易記録が違法な取引であったと示唆している。国際貿易全ての地理的分布を調べると、アジアの国々が殺虫剤や多用途化学物質の主な輸入国であり、大半が米国や中東から輸出されていたことが分かった。中央ヨーロッパと西ヨーロッパは、工業化学物質や多用途化学物質の主な輸入国であるとともに輸出国でもあった。記載された化学物質の70%は国際貿易の減少傾向を示し、この条約が積極的な役割を果たしているにもかかわらず、四エチル鉛や四メチル鉛などの、徐々に廃止されると考えられてきた他の化学物質は、まだかなりの量が取引されている。
著者らは、意図的にラベルを張り違えたり密輸されたりした化学物質の報告されていないさらなる取引を捉えることができなったので、有害化学物質の違法な国際貿易は、今回の研究で報告したよりも多い可能性があると示唆している。著者らは、この条約の順守を確保し、極めて有害な化学物質の広範囲で大規模な国際貿易や違法取引に対処するには、施行強化を含む組織的な取り組みが必要であると結論付けている。
doi:10.1038/s41893-023-01158-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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