気候科学:春の中頃の南極のオゾンホールは過去20年にわたって拡大していた
Nature Communications
2023年11月22日
南極のオゾンの総量は回復傾向にあるとこれまで報告されていたが、これに反して、南極の春の中頃(10月)の南極オゾンのコア部分(成層圏中層)の全オゾン量が2004年から今までに26%減少していたことが示唆された。このことを報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。ただし、南極の春の初め(9月)のオゾン量の回復傾向は続いている。今回の知見は、地球の気候の動的状態の変化に伴うオゾン層の状態を継続的にモニタリングし評価することの重要性を明確に示している。
1987年に採択されたモントリオール議定書には、規制対象物質としてのオゾン層破壊物質のリストが定められ、これらの物質の製造が禁止され、これによってオゾンの回復に成功したと広く考えられている。しかし、南極上空のオゾンは春先にはやや増加してオゾンホールがわずかに改善されているが、過去3年間(2020~2022年)、春の中頃には大規模で長期間持続するオゾンホールが再び出現していた。南極成層圏のオゾンは南半球全体の気候変動性において大きな役割を果たしており、オゾンの変動を解明することの重要性は依然として高い。
今回、Annika Seppälä、Hannah Kessenichらは、南極のオゾンホールの最近(2022年シーズンを含む)の変化を評価するために、2001~2022年のオゾンの毎日の変化と毎月の変化を分析した。ただし、2002年と2019年は成層圏の急激な温暖化が生じてオゾンホールが異常に早期に崩壊したため、これらの年のデータは今回の研究から除外された。著者らは、南半球の春季の主要な月(9~11月)の成層圏の各層を調べた。2022年の人工衛星データを検討したところ、2001年以降続いていると報告されていた南極の春季の全オゾン量(地球上空の一定の高度以上の全ての大気層に含まれるオゾンの総量)の回復傾向が見られなくなったことが分かった。成層圏中層は、2004年以降、オゾンの顕著な減少が続いており、オゾンホールのコア部分ではオゾンが26%減少した。このオゾン減少は、中間圏(成層圏とオゾン層より上の大気層)の動的変化によって引き起こされている可能性がある。
今回の知見から、南半球の大気の変化が南極のオゾンホールの持続に寄与していることが示唆されている。
doi:10.1038/s41467-023-42637-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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