バイオテクノロジー:遺伝子改変された寄生虫が治療用タンパク質を送達できるかもしれない
Nature Microbiology
2024年7月30日
マウスモデルを用いて、寄生虫Toxoplasma gondii(トキソプラズマ・ゴンディ)を改変し、血液脳関門を通過して宿主ニューロンに治療用タンパク質を送達する方法を報告する論文が、Nature Microbiologyに掲載される。この発見により、治療用タンパク質の送達における代替アプローチの開発を可能にするかもしれない。
タンパク質は、治療薬、あるいは生物学的プロセスを研究するツールとして使用することができる。しかし、標的とする細胞や組織への送達は、その大きさ、宿主免疫系との相互作用、および血液脳関門のようなさまざまな関門を迂回する必要性などにより複雑である。T. gondiiは、ヒトの腸から中枢神経系に自然に移動する寄生虫である。これまでの研究で、T. gondiiは宿主細胞にタンパク質を送達できることが証明されているが、この寄生虫を改変して複数の大きな治療用タンパク質を送達できるかどうかは不明である。
Shahar Brachaらは、T. gondiiの2つの分泌小器官(細胞内で特定の働きをする特殊な構造体)であるロプトリーとデンスグラニュール(濃密顆粒)を利用して、宿主細胞にタンパク質を送達するための戦略を開発した。研究チームは、寄生虫の小器官に存在するタンパク質を選択し、ヒトの神経疾患の治療薬として知られているさまざまなタンパク質と融合させた。著者らは、実験室での実験で、タンパク質が両方の分泌小器官から神経細胞へ同時に送達されることを実証した。
概念実証として、著者らは、レット症候群(脳の発達に影響を及ぼすまれな神経疾患)の治療に用いられる治療用タンパク質MeCP2をニューロンに送達し、標的DNAと結合させ、細胞内およびニューロンや脳のオルガノイドにおいて宿主遺伝子の発現を変化させることができることを示した。また、Brachaらは、改変されたT. gondiiがマウスの神経細胞にMeCP2を送達することができ、標的送達部位以外では寄生体はほとんど検出されず、送達後に顕著な炎症も生じないことを示した。
著者らは、今回の発見は治療用タンパク質送達の新たなアプローチを可能にするかもしれないが、有効性や安全性を含む潜在的な制約を理解するためには、さらなる研究が必要であると結論している。
Bracha, S., Johnson, H.J., Pranckevicius, N.A. et al. Engineering Toxoplasma gondii secretion systems for intracellular delivery of multiple large therapeutic proteins to neurons. Nat Microbiol (2024).
doi:10.1038/s41564-024-01750-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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