代謝阻害剤戦略が再び機能する
Nature Chemical Biology
2012年6月11日
新種の酵素に対する細胞浸透性の阻害剤が、今週のオンライン版『Nature Chemical Biology』の掲載論文で発表される。この種の酵素阻害剤は、発生、細胞の移動、および宿主と病原体との相互作用の理解を深めることにより、疾患の背後にある基礎生物学の研究に意味を持つ。
細胞膜の内側に侵入して細胞内で作用することができる酵素阻害剤、とりわけ高い電荷を持つものが多い炭水化物プロセシング酵素の阻害剤を発見することは、依然としてきわめて困難である。炭水化物の代謝を制御する細胞酵素は、正常な代謝経路に一部の非天然分子を許容することが知られている。また、医薬品化学では長年「プロドラッグ」が研究されてきた。これは、何らかの修飾を施された状態で投与され、体内または細胞内に入ると変化して活性化する分子である。これまでの研究では、この2つの発想の組み合わせで、修飾によって細胞透過性を与えられ、数段階の変化を受けてグリコシルトランスフェラーゼの活性型阻害剤となる糖の類似物質が作製可能であることが示されている。
James Paulsonたちは、これと同じ戦略がシアリルトランスフェラーゼおよびフコシルトランスフェラーゼの人工的阻害剤の作製に利用可能であることを示している。この2種類の酵素は、それぞれシアル酸およびフコースという特殊な糖基を生体内のさまざまな標的に結合させる酵素である。細胞内で作用しているこの種の酵素に対する低分子阻害剤は現時点で存在しないため、今回の新しい化合物は、炭水化物の構造が重要な生物学的過程とどのように関係しているのかを深く研究するための直接的なてがかりになると考えられる。
doi:10.1038/nchembio.999
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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