【幹細胞】神経幹細胞の運命が決まる際にアクチビンが果たす重要な役割
Nature Communications
2012年5月16日
増殖因子アクチビンは、神経幹細胞が脳内の特殊化した介在ニューロンへ分化する際の分化調節で重要な役割を果たすことが判明した。この知見は、幹細胞プールの運命を決める機序に関する新たな手がかりだ。現在、幹細胞プールについては、数々の疾患の治療に用いることができるかどうかを調べる研究が行われている。今回の研究結果を報告する論文が、今週、Nature Communicationsに掲載される。
幹細胞の運命は、その増殖と数々の細胞集団への分化に寄与するさまざまなシグナル伝達経路のバランスに依存している。増殖因子アクチビンは、脳内で高発現するが、このことは、アクチビンがこれらの過程で重要な役割を果たすことを示唆している。
今回、T Rodriguezたちは、マウスとヒトの胚性幹細胞に由来する特定の神経前駆細胞を用いて、神経前駆細胞が自己複製するのか分化するのかという決定が、アクチビンとソニックヘッジホッグシグナル伝達経路との相互作用によって制御されることを明らかにした。具体的に言うと、アクチビンは、ニューロン新生を促進するレチノイン酸シグナル伝達経路を増強しつつ、ソニックヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害することで、分化調節を行っていた。
また、アクチビンが皮質介在ニューロン集団への分化を選択的に促進することも判明した。これらの介在ニューロンの欠損はてんかん、自閉症、統合失調症などの神経精神疾患に関係すると考えられているため、今回の研究で得られた知見を用いて神経再生医療における新たな治療法を開発できる可能性があるとRodriguezたちは考えている。
doi:10.1038/ncomms1817
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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