Research Press Release

気候変動:気候オーバーシュートのリスク評価

Nature

2024年10月10日

温暖化を一時的にパリ協定の1.5℃の上限を超えて許容する、オーバーシュートシナリオの利用と受け入れが拡大していることへの懸念が示されている論文が、Natureに掲載される。この研究では、気候オーバーシュート後に地球温暖化を逆転させることは、現在の想定されている時間枠内では難しい可能性があることが示されている。その代わりに、地球の気温上昇を制限することが、気候変動を緩和する上で最も効果的な戦略であると考えられている。

パリ協定は、産業革命以前の気温を1.5℃上回る温暖化を、気温上昇の楽観的な限界値として設定している。この目標を一時的に超過、いわゆるオーバーシュートすることで、その後の温暖化を1.5℃未満に逆転させることが、二酸化炭素排出量を削減することで可能になると提案されている(ただし、これは炭素回収技術の開発に依存するかもしれない)。しかし、オーバーシュートが気候変動に与える影響は不明である。

Carl-Friedrich SchleussnerおよびJoeri Rogeljらは、オーバーシュートの経路と長期的な気候安定化に関するモデリングシミュレーションを調査した。その結果、オーバーシュートが起こるシナリオと起こらないシナリオでは、地球および地域規模の気候変動のリスクが異なることが分かった。著者らは、オーバーシュート後の気温低下は達成できない可能性があると指摘している。これは、地球システムからの強いフィードバックによる温暖化の増幅が起こり、長期的な温暖化につながる可能性があるためである。

Schleussnerらは、オーバーシュートが発生すると、陸上の生物種の個体数、炭素貯蔵量、および生物多様性など、地球システムの多くの側面がオーバーシュート発生前のレベルに戻らない可能性があることを発見した。また、オーバーシュート発生後に気温が低下した場合でも、海面水位の上昇は継続すると指摘している。著者らは、地球の気温上昇を抑える努力は、オーバーシュートによる地球の気温上昇を安定化させるよりも、気候変動リスクを抑制する可能性が高いと示唆している。

オーバーシュートシナリオは、将来的な炭素除去コストが現在のコストと比較して削減される可能性に依存している。著者らは、開発可能なあらゆる炭素除去システムは、オーバーシュート後に高リスクの事態を回避するために、数百ギガトン規模の炭素除去が必要になるかもしれないと指摘している。しかし、現在の技術、経済、および持続可能性の観点から、このようなレベルでシステムを稼働させることはできない可能性がある。

この調査結果は、オーバーシュート後の変化を制御できると過信することは避けるべきであることを示唆している。著者らは、気候変動を抑制するには、排出量の急速な減少のみが効果的であると結論づけている。

Schleussner, CF., Ganti, G., Lejeune, Q. et al. Overconfidence in climate overshoot. Nature 634, 366–373 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-08020-9

doi:10.1038/s41586-024-08020-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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