Research Press Release
ウイルスが自己免疫の引き金をひく
Nature Immunology
2010年6月7日
自己免疫反応を起こす人が一部にいるのに、ほかの人が起こさないのはなぜか。これは研究者を長い間悩ませてきた謎であるが、その原因は、2種類の異なる受容体をもつ免疫細胞らしい。
免疫系の構成員の1つT細胞は、TCRとよばれる細胞表面受容体を発現しており、これが標的細胞の表面に提示されたタンパク質断片を認識する。T細胞はそれぞれ、固有の特異性をもつ固有のTCRを発現する。J Govermanたちは、CD8+ T細胞の中に、2種類の異なるTCRを発現するものがあることを明らかにした。2種類の一方はウイルスペプチドに特異的だが、もう一方は脳に特有なミエリンペプチドを認識する。このようなTCR二重発現T細胞をもつマウスにはウイルスを感染させると、ヒトの多発性硬化症のモデルである自己免疫性脳脊髄炎を発症する。
なぜウイルス感染が自己免疫発生のきっかけになるのか、これまで考えられていた理由をGovermanたちが否定したことが重要である。ウイルス特異的TCRがT細胞を活性化すると、これが体内を循環してウイルス感染細胞を探し出して破壊するが、このT細胞が第二のTCRを介して認識することにより、ミエリン発現細胞をも攻撃する。
Govermanたちが明らかにしたのは、ウイルス感染が脳脊髄炎を引き起こす仕組みだが、ほかの自己免疫疾患が発症する仕組みも、この知見によって説明できるかもしれない。
doi:10.1038/ni.1888
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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