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これまで見落とされていた糖質コルチコイド欠乏の一因か?

Nature Reviews Endocrinology

2009年7月1日

Adrenal function An overlooked cause of glucocorticoid deficiency?

従来、非古典型先天性副腎過形成を有する患者では糖質コルチコイド欠乏は認められないとされてきた。今回、フランスの臨床研究の結果からこの前提に疑問が唱えられ、高い頻度で発現する同遺伝性疾患患者の分類と治療に大きな問題が投げかけられた。

21-水酸化酵素欠損症が原因の先天性副腎過形成(CAH)は、最も頻度の高い先天性疾患の1つである。非古典型CAHは過去20年間にわたり研究されているが、患者の糖質コルチコイド産生およびストレス応答についてのデータはきわめて少ない。Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism誌に発表された遺伝子型-表現型解析の結果により、この問題が解決された。Maud Bidetら1は、相当数の非古典型CAH患者に部分的な糖質コルチコイド欠乏がみられることを明らかにした。

CAHは塩喪失型、単純男性化型、非古典型の3つの表現型に分類される。古典型CAHは塩喪失型および単純男性化型CAHを合わせたもので、糖質コルチコイド欠乏およびアンドロゲン過剰といった特徴を示す。アンドロゲン過剰は、蓄積されたステロイド前駆体が性ホルモン産生経路に流れ込むことが原因で生じる。塩喪失型CAH患者は、アルドステロン欠乏による腎からの塩喪失も症状とする2。一方、非古典型CAHは一般集団の約1,000人に1人の頻度で発現する軽症型の疾患であり2、女性において特定されるアンドロゲン過剰症の原因としては最も頻度が高い。非古典型CAHでもアンドロゲン過剰を呈する場合は抑制用量の糖質コルチコイドによる治療が可能である4が、非古典型CAH患者は本質的には糖質コルチコイド欠乏ではないというのが従来からの見方であった。

Bidetらは、非古典型CAHの診断を受けた女性で、それぞれ血縁関係にない161例(年齢13~52歳)とその血縁者330名を対象に、臨床および分子学的特性の評価を行った。受診時に最も高い頻度で認められた非古典型CAH症状は多毛、月経異常、妊孕性の低下であった。著者らは、非古典型CAHに対する従来の見方に反し、患者の糖質コルチコイド要求量およびアンドロゲンに関連する表現型には差があり、患者と同じ遺伝子型を有する血縁者も同様であることを見出した。非古典型21-水酸化酵素欠損症は、副腎皮質刺激ホルモンアナログ(Synacthen®、Alliance Pharmaceuticals、Chippenham、UK)250μg筋注60分後における17-ヒドロキシプロゲステロン値が>30nmol/L(10ng/mL)の場合と定義した。同カットオフ値では無症状のヘテロ接合性保因者も一部検出されたが、Bidetらの見解では≧30nmol/L(10ng/mL)以上をカットオフ値として用いると非古典型CAH患者の一部が見逃される可能性があるため、同値が妥当とされた。

124例の発端患者において、21-水酸化酵素遺伝子(CYP21A2)の遺伝子解析を実施した。古典型CAHに関連する変異がホモ接合性で認められる場合は重症型、非古典型CAHに関連する変異が複合ヘテロ接合性もしくはホモ接合性で認められる場合は軽症型と定義した。患者を3つの変異群、すなわち軽症型変異を2つ保有するA群、軽症型および重症型変異をそれぞれ1つずつ保有するB群、重症型変異を2つ保有するC群にそれぞれ分類した。患者の約3分の2(63.7%)が軽症型および重症型変異をそれぞれ1つずつ保有しており、これらの患者では21-水酸化酵素の残存活性が高かった。このことから、臨床的表現型の重症度は軽症型の変異アレルの有無により決定されることが示唆された6。A群とB群の患者ではテストステロンおよびアンドロステンジオンの基礎値、ならびにSynacthen®による刺激前後の17-ヒドロキシプロゲステロン値に差がみられたにもかかわらず、その臨床症状は同様であった。17-ヒドロキシプロゲステロンのピーク値が30~61nmol/L(10~20ng/mL)を示したのは、全群の患者のうち19例であった(A群では43例中12例)。重要なことに、コホート全体で血漿テストステロン値が正常であったのは患者の38.3%に及んだが、アンドロステンジオン値が正常であったのはわずか8%のみであった。さらに著者らは、全血縁者のうち51名が2つの変異を保有しており、そのうち42名(82%)が無症候性であることを明らかにした。この現象が遺伝子型と関連しているのかどうかは不明である。しかし、発端患者と無症候性の血縁者の遺伝子型は同じであるため、CYP21A2遺伝子型が表現型の発現を調節するのとは別の機序が働いている可能性が示唆される。

Bidetらは患者の63.7%において重症型変異がヘテロ接合性に認められることを示しており、非古典型CAH患者における遺伝子解析の必要性を指摘しているこれまでの研究データを支持する結果となった。古典型CAHと関連するCYP21A2変異アレルの一般集団における発現頻度を50分の1と仮定すると、複合ヘテロ接合性の変異を保有している非古典型CAH患者と健常な配偶者との間に生まれた児が古典型CAHに罹患するリスクは、1万分の1から200分の1へと上昇する。

非古典型CAH患者は副腎不全を発症する可能性があり、ストレス時には糖質コルチコイドの急速補充が必要とされる。Bidetらは、併発疾患の発症時に副腎クリーゼを発現し、非古典型CAHと診断された2例の患者を特定している。1例は数日間にわたる高熱を伴う腎盂腎炎、もう1例は妊娠初期の持続性嘔吐を発現した際に診断された。コホート全体において糖質コルチコイドの状態を解析したところ、コルチゾールの基礎値は正常であった(370±163nmol/L)。しかし、Synacthen®刺激後のコルチゾール値が414nmol/L未満であった患者は32%に達し、相当数の患者が実質的にコルチゾール欠乏であることが明らかとされた。だが、Bidetらのコホートにおける糖質コルチコイド欠乏の真の有病率は過小評価されている可能性がある。というのも、本研究では刺激後コルチゾール値のカットオフ値が414nmol/Lに設定されていたが、この値は臨床的に重大な続発性副腎不全の除外基準として提案されているコルチゾールのピーク値(510~550nmol/L)に比べるとかなり低い7。また、本研究ではコルチゾール値がSynacthen®投与30分後ではなく60分後に測定されていた。30分後の反応を評価していれば、本コホートにおける潜在的な糖質コルチコイド欠乏の有病率は大幅に高くなっていたと予想される。

Bidetらのデータから、非古典型CAH患者が糖質コルチコイド欠乏ではないという定説が誤りであることが示されている。この結果は、重要な疑問を提起している。糖質コルチコイド産生阻害は固定的な現象なのか、それとも加齢とともに進行するのか(もしくは改善するのか)。非古典型CAH患者の経過観察においては、糖質コルチコイド欠乏の程度を評価するためのSynacthen®検査が必要なのか。Bidetらの結果からは、21-水酸化酵素欠損症に起因するCAHを有する全患者において副腎予備能を評価することの重要性が示唆される。非古典型CAHと診断された相当数の患者を含め、すべてのCAH患者では、ストレス時における糖質コルチコイドの急速補充やその他の緊急措置、例えば糖質コルチコイドの自己注射訓練および嘔吐下痢エピソード発現時の行動に関するアドバイスなどが必要となろう。さらに患者はすべて、自身が「先天性副腎過形成」もしくは副腎不全の診断を受けていることや、現在受けている糖質コルチコイド補充療法のレジメンに関する情報が記してあるメディカルIDとステロイドカード(steroid card)を携帯しておくべきである。

「軽症型」21-水酸化酵素欠損症患者においては、ストレスの多い状況で副腎クリーゼを発症するリスクがある患者を特定するための検査をルーチンに行うことが緊急に求められる。Bidetらの結果から、糖質コルチコイド欠乏はこれまで考えられていたよりも高頻度に生じている可能性が示唆される。

診療のポイント
・非古典型先天性副腎過形成(CAH)患者では糖質コルチコイド欠乏が高頻度にみられる可能性がある。
・軽症型の非古典型CAHに関連する遺伝子変異を保有する患者でも糖質コルチコイド欠乏のリスクは高く、ストレス時には糖質コルチコイドの急速補充療法が必要となる可能性がある。
・21-水酸化酵素欠損症は、保有する遺伝子型に従って連続的な表現型を示す疾患とみなすべきである。

doi: 10.1038/nrendo.2009.107

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