小児クッシング症候群における寛解時の高血圧
Nature Reviews Endocrinology
2009年11月1日
Adrenal gland Hypertension during remission of childhood Cushing syndrome
血中糖質コルチコイドの上昇がもたらす長期の有害な影響についての認識が深まりつつある。今回、小児の内因性クッシング症候群に関する研究から、寛解時でも高血圧が持続する可能性があることが示され、これらの小児の健康を長期に管理するうえで、さらには糖質コルチコイド療法を受けている小児患者においても生じうる重要な問題が提起された。
内因性クッシング症候群は、血中コルチゾール値の上昇および異常の持続によって引き起こされる。クッシング症候群のさまざまな症状のなかでは、高血圧が高頻度にみられる。小児におけるクッシング症候群の発症はまれであり、大規模かつ有益な症例研究を行うのに十分な症例数を蓄積するためには多くの時間を要する。小規模な症例研究からは、寛解後に血圧が正常レベルまで回復することが示唆されている。しかし、今回Lodish らにより、小児では高血圧が持続することが示され1、この知見に対する疑念が生じている。通常、内因性クッシング症候群は、副腎からのコルチゾール分泌を亢進させる副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)の過剰分泌によってもたらされる。その原因として最も一般的なのが、ACTH 産生下垂体腫瘍(クッシング病)である。一方、ACTH 値の低下にもかかわらず、副腎からの自律的なコルチゾール分泌が 持続する場合もある(ACTH 非依存性クッシング症候群)。Lodish ら1 は、1997 ~ 2007 年の10 年間、米国National Institutes of Health(NIH)で治療を受けていたクッシング症候群の大規模な小児集団(7~ 19 歳)を対象に、血圧の調査を行った。同集団には、ACTH 産生腫瘍86 例、ACTH 非依存性クッシング症候群27 例の計113 例が含まれた。クッシング病に対する経蝶形骨洞手術、もしくはACTH非依存性クッシング症候群に対する副腎手術施行前、退院前の術後周術期、および1 年後に、全例において血圧を測定した(1 年後のデータはクッシング病患者の60%、ACTH 非依存性クッシング症候群患者の70% で得られた)。高血圧は、収縮期および拡張期血圧が年齢による補正後の95 パーセンタイル値を上回る場合と定義した。
著者らは、術前には収縮期高血圧が多くみられ、その頻度はクッシング病患者に比べACTH 非依存性クッシング症候群患者で大幅に上昇することを見出した(それぞれ44% および74%)。一方、拡張期高血 圧は全体的に少なく、その頻度は両群とも同等であった(それぞれ25% および26%)。術後には、いずれの追跡調査時でも血圧値はかなり低下したが、1 年後に高血圧を示す患者も少なからずみられた(収縮期高 血圧はクッシング病およびACTH 非依存性クッシング症候群患者のそれぞれ16% および21%、拡張期血圧はそれぞれ4% および5% に認められた)。これらの観察結果は、成人患者の場合と一致してい る。すなわち成人患者では、外科的介入が成功した場合はその後血圧値が改善するものの、心血管リスクの上昇は少なくとも5 年間持続することが報告されている。しかし、このデータは、1997 年に発表され た小児クッシング症候群患者に関するデータとは矛盾している。小規模ながら本研究では、追跡期間中に正常血圧値が保持されることが示された。
Lodish らの研究で、クッシング病患者群における経蝶形骨洞手術による寛解率が明らかに高かったことは注目に値する。手術を施行した86 例中、術後もコルチゾール値の上昇が持続し、別のコルチゾール低下 戦略が必要となった患者はわずか3 例のみであった。これは、成人患者において報告されている寛解率に比べるとはるかに高く、Lodish らの研究に参加した外科医の技量がきわめて高いことを反映している可能性がある。ただし、追跡期間が短く、成人患者でしばしば認められる遅発性の再発がまだ生じていないとも考えられる。その他、成人患者における報告と異なっていた点として、27 例のACTH 非依存性クッシング症候群患者のうち副腎腺腫によるものはわずか4 例のみであったことが挙げられる。残りは、成人患者ではきわめてまれな色素性または非色素性原発性副腎結節性異形成を呈していた。このような分布はNIH への紹介パターンにおけるバイアスを反映しており、副腎腺腫が多い成人患者における結果との照合を困難にさせている。
doi: 10.1038/nrendo.2009.200