先端巨大症関連死の予測因子
Nature Reviews Endocrinology
2010年2月1日
PITUITARY GLAND Predictors of acromegaly-associated mortality
先端巨大症における死亡率は高い。これまでの研究では成長ホルモンおよびインスリン様成長因子-1 値、男性、年齢、高血圧、診断の遅れ、脳下垂体に対する放射線療法が死亡率上昇の独立した予測因子となることが示されている。今回Sherlock らの研究により、副腎不全およびヒドロコルチゾン補充療法が先端巨大症関連死の予測因子として新たに加えられることになった。
先端巨大症における死亡率上昇は主として心血管、脳血管、および呼吸器障害に起因している1。先端巨大症では血清成長ホルモン値2.5 μg/L 以上、インスリ ン様成長因子-1 値の上昇(年齢による補正必要)などの要因が死亡率と関連することが示されていることから、成長ホルモン値などを厳密にコントロールすることが求められる1。また、治療目標が十分に達成さ れるとは限らないことから、合併疾患の特定と治療も重要となる。高血圧や糖尿病といった合併疾患は見い出すのが容易であり、かつ早期介入も行いやすい。この10 年間における死亡率低下傾向は、こうした合併疾患の適切な管理によるものと考えられる。心血管死亡率に関連する因子のなかでは高血圧のみが先端巨大症による死亡の有意な予測因子として同定されているが、糖尿病や喫煙、脂質異常も独立予測因子とな る可能性があり、このことはより大規模な臨床試験によって確認する必要がある。死亡率上昇に関連した他の因子としては、診断時の年齢1,2、診断の遅れ1、男性2、微小腺腫2 および脳下垂体に対する放射線療法1,2の既往などが見出されている。今回Sherlock ら3 の研究により、先端巨大症患者の寿命をさらに改善する取り組みにおいて死亡を予測する新たな合併疾患が同定された。 Sherlock らは英国のWest Midlands Acromegalyデータベースのデータを解析し、脳下垂体に対する放射線療法と下垂体機能低下症という因子が死亡率にどのように影響を及ぼすかについて検討した。対象は先端巨大症の男性患者226 例および女性患者275 例である。14 年間の追跡期間(中央値)中に162 例が死亡した。237 例が脳下垂体に対する放射線療法を受け、178 例が副腎不全の診断によりヒドロコルチゾン投与を受けた(15 ~ 30 mg/ 日)。著者らは年齢、性別、病歴のマッチしたイングランドおよびウェールズの健常人と先端巨大症コホートの死亡率を外部比較することによって標準化死亡比(SMR)を算出した。また、放射線療法施行患者と非施行患者、さらには副腎不全患者を伴う患者と伴わない患者とでの比較も行った。先端巨大症患者の全死亡率は一般集団に比べて有意に高かった(SMR 1.7、95%CI 1.4 ~ 2.0、P < 0.001)。種々の因子(成長ホルモン値、性別、年齢、追跡期間など)で補正すると、放射線療法施行患者では他の治療法を受けた患者に比べて死亡率が上昇することが明 らかとなった(SMR 2.1、95%CI 1.7 ~ 2.6、P=0.006)。心血管および脳血管疾患はすべての先端巨大症患者における死亡率上昇の主な原因であり、また、脳血管疾患は放射線療法施行患者における主要な死因でもあった。
これらの結果は、West Midlands データベースから導き出された過去の結論を支持するものである。Ayuk ら4 は放射線療法施行例211 例を含む419 例(女性241 例)を対象に解析を行った。中央値で13 年間の追跡期間中に、95 例が死亡した。先端巨大症患者における全死亡率は一般集団に比べて有意に高く(SMR 1.26、95%CI 1.03 ~ 1.54、P=0.046)、放射線療法施行患者ではさらに死亡率が上昇したが(SMR1.58、95%CI 1.22 ~ 2.04、P=0.005)、放射線療法施行患者における死亡は主に脳血管疾患に起因していた(SMR 4.42、95%CI 2.17 ~ 7.22、P=0.005)。こ のSMR の上昇は下垂体機能低下の是正後も依然として認められた。一方Tomlinson ら5 は頭蓋咽頭腫やプロラクチン産生腫瘍、非機能性腫瘍など、先端巨大症以外の下垂体疾患による機能低下症を有する1,014例を対象に死亡率を検討った。死亡率は放射線療法を施行した353 例で上昇しており(SMR 2.11、99%CI1.56 ~ 2.86、P=0.004)、そのほとんどは脳血管疾患によるものであった(SMR 4.36、99%CI 2.48 ~ 7.68、P=0.001)。その他の報告でも、同様の結果が示されている。これらの成績は、脳下垂体に対する放射線療法は先端巨大症患者に限らずすべての患者におい て死亡率を上昇させること、そのほとんどが脳血管疾患に起因することを示すものである。
Sherlock らは新規に、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)依存性の副腎機能不全が先端巨大症における死亡率上昇の独立した予測因子となることを見出した。性別、到達年齢、病歴期間、追跡期間、および放 射線療法の既往により補正後の比較において、ACTH欠損は死亡リスクの上昇と関連していた(相対リスク1.7、95%CI 1.2 ~ 2.5、P=0.004)。West Midlands データベースの過去の研究では、先端巨大症患者における下垂体機能低下4 も、その他の下垂体疾患患者における副腎不全6 も死亡率には影響を及ぼさないことが示されていた。副腎不全を伴う患者は副腎機能が正常な患者に比べて死亡率が高いことから8,9、先端巨大症においても副腎不全が死亡率を上昇させる可能性は十分考えられる。
Sherlock らはさらに、副腎不全を伴う先端巨大症患者に対するヒドロコルチゾンの高用量投与がSMR の上昇に関連することも明らかにした(linear trend P<0.001)。種々の因子による補正後の死亡率は25 mg/ 日以上のヒドロコルチゾン投与を受けた患者で上昇しており、そのほとんどは心血管疾患の増加に起因していた。過去の研究では5、先端巨大症以外の 下垂体疾患患者で15 ~ 30 mg/ 日のヒドロコルチゾン投与を受けている患者と補充療法を受けていない患者とでの死亡率に差はみられていなかった。
ただしSherlock らは、一部の患者ではインスリン負荷試験を実施したことについては言及しているものの、原発性と続発性の副腎機能不全をどのように区別したかについては明らかにしていない。また、ヒドロ コルチゾン補充療法の服用期間についても報告していない。著者らは副腎不全を伴う患者、または伴わない先端巨大症患者において比較を行っているが、副腎不全が相乗的にまたは独立して死亡率に影響を及ぼすかどうかに関しては依然不明である。この問題を解明するためには、先端巨大症を伴う、または伴わない副腎不全患者を対象に検討を行わなければならない。また、ヒドロコルチゾンの用量による影響についても解析する必要がある。下垂体腫瘍に対する放射線療法は、ほとんどの患者で従来型の方法が用いられていた。しかし一部の施設では従来型の放射線療法に代わり定位放射線照射の使用が増加しつつあることから、同療法の死亡率に及ぼす影響についても再評価することが求められよう。
先端巨大症患者の死亡率を上昇させる因子として、これまでに少なくとも10 の因子が報告されている(Box 1)。先端巨大症患者の診断および管理に際しては、これらすべての因子について考慮すべきである。 早期診断、成長ホルモンおよびインスリン様成長因子-1 値の厳密なコントロール、血圧の正常化、副腎不全の早期診断とヒドロコルチゾン投与量25 mg/ 日以下による治療は、高齢者ならびに男性患者における 死亡率低下に特に有用な可能性がある。また、先端巨大症患者では脳血管および心血管疾患の高い頻度が死亡原因となっていることから、死亡率上昇と独立に関連することが示されていない糖尿病等の合併については早期から積極的に治療することが求められる。下垂体に対する従来型の放射線療法は、慎重に行う必要がある。
doi: 10.1038/nrendo.2009.267