X 連鎖性副腎白質ジストロフィーに有効な遺伝子治療
Nature Reviews Neurology
2010年1月1日
White matter disease Successful gene therapy in X-linked adrenoleukodystrophy
同種造血幹細胞移植(HCT)は、脱髄が生じる脳型のX 連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)に対して疾患経過を修飾する効果が認められているが、 組織適合した幹細胞ドナーを見つけることが難しい場合があり、また同種HCT は高い死亡リスクを伴う(小児で15 ~ 20%、成人で最大40%)。この問題を回避するため、パリのHospital Saint-Vincent de Paul のPatrick Aubourg とNathalie Cartier らは、患者自身の幹細胞を遺伝的に改変し治療に使用するという新しい戦略を考案した。Science 誌で報告されたように、 現在のところX-ALD 患者2 例でこの治療法の効果が認められている。
X-ALD は中枢神経系(CNS)で脱髄が生じる疾患であり、ABCD1 遺伝子の機能喪失性変異によって引き起こされる。ABCD1 遺伝子はアデノシン三リン酸結合カセット輸送体ALD をコードしている。6 ~ 8 歳ごろからの男児に発現し、そのほとんどが成人前に死亡する。Aubourg は「1990 年に私は、X-ALD の初期段階で同種HCT を行えば、脳の脱髄の進行を停止させ、回復させることも可能であるというproof of concept(概念の実証)を得た」と述べている。
最新の試験において、研究者らはHIV1 由来の自己不活性化レンチウイルスベクターを用いた。Aubourg によると、このベクターは「DNA を(ニューロンのような)分裂しない細胞内に透過させること ができるユニークな特徴がある。少なくともin vitroとマウスでは造血幹細胞の核内にまで透過させることができる」。X-ALD 患者2 例の末梢血からCD34+細胞を単離し、野生型ABCD1 遺伝子を組み込んだベ クターで形質導入を行った。患者に骨髄破壊を行って体内の造血幹細胞を除去し、遺伝的に改変された患者自身の細胞を注入した。
24 ~ 30 ヵ月の追跡期間中、2 例ともかなりの割合の末梢血白血球にALD の発現が認められ、遺伝的に修正された細胞が無事生着したことが示された。移植後14 ~ 16 ヵ月まで、脳MRI スキャンによって2 例とも脱髄の進行が抑止されていることが示された。随伴症状の安定化または認知機能と運動機能の改善が認められ、これは先に同種HCT で得られている臨床転帰と一致していた。
「これは重度の脳疾患において初めて成功した遺伝子治療である。」とAubourg は述べながらも、「実質的な髄鞘再形成は見られていない。ある程度の回復は可能だが、わずかだろう」と指摘している。
Aubourg らのレンチウイルスベクターを用いた造血幹細胞への形質導入効率は約15%であった。先行研究のマウスγ-レトロウイルスベクターでは0.01%と記録されている。現在Aubourg の研究チームは、 さらに形質導入効率を上げる研究を行っており、60%も可能だろうと考えている。移植した細胞の治療有効性の向上とともに、形質導入効率の改善によって、より毒性の低いレジメンを使うことができるようにな るかもしれない。
「われわれのデータは、骨髄移植で治療し得るすべてのCNS 疾患に対して重要な意味を持っている。」とAubourg は述べている。現在、彼の研究チームはX-ALD の試験を欧州、米国に拡大して実施しており、 異染性白質ジストロフィーを対象に同じ戦略を用いる試験をミラノの研究チームが計画している。Aubourgは、造血幹細胞の遺伝子治療がいつか、脳型X-ALDを発症するすべての患者を適応とするファーストライ ン治療の選択肢となることを望んでいる。
doi: 10.1038/nrneurol.2009.204