MS 患者に対する血管形成術
Nature Reviews Neurology
2010年4月1日
Multiple sclerosis Vascular angioplasty for MS?
多発性硬化症(MS)は変性型運動疾患であり、一般的に自己免疫反応によって生じると考えられている。イタリアの血管外科医Paolo Zamboni は現在、 脳から血液を排出する脳脊髄血管の収縮によりMSに至るのではないかという可能性を提唱している。彼は以前、あるMS 患者グループにこの部分の閉塞を発見し、治療を行った。この結果からMS の原因と して別のモデルが示唆されており、新しい治療法につながる可能性がある。
慢性脳脊髄静脈不全(Chronic cerebrospinal venous insufficiency; CCSVI)は、頭蓋外排出に重要な血管に閉塞が生じる疾患である。Zamboni は、MS 患者にCCSVI のいくつかの組織学的マーカーがしばしば認められることに気がついた。そこで彼は、CCSVIがMS の原因ではないか、同じ血管外科手術が実行可能で安全であり、MS の症状を軽減することができるのではないかと考えた。
頭蓋外の脳静脈流出路に異常所見が認められた、18 ~ 65 歳のMS 患者65 例が試験対象に選ばれ、CCSVI の身体的指標と血行動態指標によってスクリーニングされ、MS の重症度によって分類された。そ の後、脳静脈流出路である血管の選択的静脈造影を用いて閉塞の大きさと性状が調べられた。
Zamboni らは狭窄の保存的な治療方法である経皮経管的血管形成術(Percutaneous transluminal angioplasty;PTA)により、この閉塞の治療を行った。治療後、静脈圧の有意な低下が認められ、追跡18 ヵ月時点での開存率は50 ~ 96%であった。神経学的測定により、MS の重症度の改善、QOL の改善、また再発率の低下も示された。この効果の程度はMS の重症度と反比例しており、ベースラインのMS の重症度が低い患者で最も改善が認められた。
以上の結果から、PTA によって効果的かつ安全に血管狭窄が低減され、MS 症状の治療が可能であることが示唆された。しかしこの結果は広く一般化することはできない。データは予備的なものであり、この試 験は治療法を評価するためにデザインされてはおらず、対照群も設けられていなかったからである。
また、Zamboni の理論が、十分なエビデンスに支えられている自己免疫モデルとどのように調和できるかは現在のところ不明である。Zamboni は、「おそらくCCSVI と、それとは独立して起きている中枢神経 系(CNS)に対する自己免疫の両方が、MS の重要な原因なのだろう」と認めている。
この試験の後に実施された、米国バッファローのチームによる試験の予備的な結果では、静脈不全の有病率がMS 患者では55%、対照では25%であることが示されており、MS と静脈不全に関連があることが支 持されている。しかしMS における血管構築の役割を解明するにはさらにデータが必要である。デトロイトのMRI Institute for Biomedical Research のMark Haacke 所長は、さらなる対照試験と平行して「CCSVIかどうか決定するために、あと30 ~ 40 分追加のスキャンをする」ことによって、MS 患者から素早く簡単にこうしたデータを集めることができると考えている。
Zamboni は、第一に「CCSVI の遺伝学とMS の遺伝学を統合する」、第二に「CCSVI の脳病態生理学の影響を調べる」、第三に「さらに治療のエビデンスを集める」、この3 つの線に沿って研究を続ける予定 である。
doi: 10.1038/nrneurol.2010.23