Research Highlights

辺縁系脳炎では、抗体はカリウムチャネルよりLGI1 が標的

Nature Reviews Neurology

2010年9月1日

Antibodies target LGI1 rather than potassium channels in limbic encephalitis

電位開口型カリウムチャネル(voltage-gated potassium channels; VGKC)に対する抗体と関連し、辺縁系脳炎として知られる疾患は今後再分類される可能 性がある。最近の研究によると、そのようなチャネルは辺縁系脳炎でみられる自己抗体の標的ではないとされている。この研究者らは、むしろその抗原は実際には、シナプスの機能に極めて重要な役割を担っている分泌型ニューロン蛋白のロイシン・リッチ・グリオーマ不活化蛋白1(LGI1)であると報告している。

辺縁系脳炎を発症した患者は、短期間の記憶喪失をしばしば経験するだけでなく、様々な重度の神経精神症状や発作を呈する。いくつかの研究からは、この疾患で最も高頻度にみられる形態の一つは、VGKC に 対して産生される自己抗体によって引き起こされることが明らかにされている。その抗体は、神経性筋強直症(筋痙攣を特徴とする末梢神経疾患)やMorvan症候群とも関連しており、これら両方の疾患では症状 が共通している。その新たな研究の主任研究員であるJosep Dalmau は、「同じ抗体を持っている患者でそのように違う症状が発現するという事実から、このチャネルは真の標的抗原であるのかどうかという疑念が持ち上がった」と述べている。Dalmau らは細胞ベースのアッセイで、これらの疾患のどちらか一方を有する患者から得たVGKC と抗体の間に反応性を見いだすことができなかったことから、この疑念はさらに増すこととなった。

その新たな研究では、VGKC 抗体に関連した辺縁系脳炎の真の抗原を特定することを目的とした。注意深い臨床検査を通して、VGKC 抗体が原因である辺縁系脳炎を有する患者57 例、ならびにその他のいく つかの疾患のうちの一つを有する対照患者148 例が特定された。被験者から血清サンプルあるいは脳脊髄液サンプルを採取し、VGKC 抗体を調べた。なお、ラットの脳切片および海馬ニューロンを免疫染色する 能力がサンプルに認められた場合、あるいは125I-α-デンドロトキシンを用いたラジオイムノアッセイでサンプルが陽性であった場合を「VGKC 抗体あり」とした。

これらの検査の結果、辺縁系脳炎の全ての患者および対照患者の5 例(Morvan 症候群が1 例、神経性筋強直症が3 例、重度の脳炎および痙攣が1 例)が、VGKC 抗体陽性と考えられた。

辺縁系脳炎で「VGKC 抗体」を有する患者2 例および対照患者1 例から採取した血清を用いて、免疫沈降反応検査が行なわれた。免疫沈降物をマススペクトロメトリー分析の結果、辺縁系脳炎患者のサンプル 中にはLGI1 の存在が認められたが、対照患者のサンプル中には認められず、この結果は市販されているLGI1 抗体を用いた免疫ブロット法で追認された。

VGKC 抗体が原因の辺縁系脳炎とLGI1 との関連性を確かめるため、被験者から採取した血清サンプルあるいは脳脊髄液サンプルを用いて、セルラインに発現させたLGI1 に対する反応性を調べた。その結果、 辺縁系脳炎の患者では57 例全てのサンプルが、このアッセイで免疫染色陽性を示したが、対照群では陽性を示したサンプルは全くなかった。さらに、VGKCの2 つのサブユニットを共発現させて同様の実験を 行った結果、患者および対照者から採取した血清または脳脊髄液サンプルは、これらの蛋白に対して反応性を示さなかった。

事前に辺縁系脳炎患者の血清をLGI1 でインキュベートしておくと、「VGKC 抗体」はラット脳切片の染色を阻害することから、LGI1 がこれらのサンプルの主要な抗原であることを示すさらなる証拠が得られ た。またこの知見はマウスの実験結果、すなわち辺縁系脳炎患者の血清または脳脊髄液でインキュベートすると、海馬切片は野生型マウスでは染色されるが、LGI1 ノックアウトマウスでは染色されないという結 果からも裏づけられた。

研究者らは、過去のVGKC 抗体が原因で発症した辺縁系脳炎では主要な抗原がLGI1 であることを特定したことに加えて、コンタクチン関連蛋白様物質2 に対する抗体が辺縁系脳炎の患者では1 例に、脳炎お よび痙攣を有する患者やMorvan 症候群、神経性筋強直症の患者では数例に存在していたことを明らかにした。以上のことから、「VGKC に対する単一の免疫反応で説明することが難しい臨床表現型の違いは、今 日、2 つの異なる分子標的に対する抗体を特定することによって説明され得る」とDalmau は述べている。

これらの知見を踏まえて、VGKC が関連した自己免疫疾患を再分類することを研究者らは提唱している。彼らはまた、VGKC 抗体に関連したどんな疾患に関しても、その存在はまだ明白になっていないこと を指摘している。

doi: 10.1038/nrneurol.2010.119

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